『ケン・ジョセフの世界どこでも日本緊急援助隊』(その2)

『ケン・ジョセフの世界どこでも日本緊急援助隊』

前回([id:rna:20040212])の続き。ケンはイラクの人たちの声を聞いてみるとイラク攻撃は支持されてるし、イラクは危険な場所じゃない(自分たちもそこで活動していたわけで)と言っていたのでした。しかし、自衛隊の派遣には反対だと言っています。何故でしょう? 理由は大きく分けて二つ

最初の自衛隊より民間がいいというのはケンの持論で JET の活動から学んだことのようです。『世界どこでも…』では災害復興などの場面では軍隊は使えないと主張しています。確かに軍隊の機動力は物資の輸送や建設復興には有用ですが、現場のきめ細かな仕事をするには不向きだというのです。

軍人は基本的に命令に従って行動し命令以外のことはしてはいけないというのが叩き込まれているので、混沌とした現場のニーズに柔軟に対応できないというのがその理由です。復興の現場では人間としての常識的な判断*1に従って行動できる人が一番必要なのです。

次に平和憲法を守るのが大事という考えは、『世界どこでも…』で紹介されている湾岸戦争時のヨルダンの難民キャンプでのエピソードがきっかけのようです。ケン達はキャンプでは日本から来たということでたいへんな歓迎を受け、クウェートから来た難民の代表からは「日本には戦争ができない決まりがある素晴らしい国だ」とまで言われたそうです。

マル激での話によればイラク人も日本の平和憲法の話をすると涙を流して感動するそうです。そんなことができるのか、そんな憲法があればあんなバカな戦争で家族が死ぬこともなかったのにと。平和憲法があり実際(米国の庇護があってこそとはいえ)戦後一度も戦争をしていない日本という国は、長い間戦争に苦しんできた国の人々からすれば希望の星だと言うのです。

『世界どこでも…』ではケンはそんな(日本人自身はあまり知らない)日本のポジションを利用して予防外交戦略を展開するのが日本の使命ではないかと説きます。例えば戦争を未然に防ぐために真っ先に災害援助を行うこと。災害は貧困を招き戦争の火種になりがちですが、援助によってその危険性を減らせます。また、マル激ではイラクには法律家、特に憲法の専門家を送れと言っています。新憲法改正に際し信教の自由を巡って宗教指導者がモメていたりして下手な憲法ができると後々災いを招きかねないからです。

これは単なる反戦平和主義というのではなく、それが日本にしかできないことだから日本がやるべきだというのがケンの立場です。逆に言うとケンには他の普通の先進国は戦争を必要とするシステムになっていて予防外交戦略を期待できない(予防するより見過ごして後から戦争する方が得になる)という認識があるからです。

以上イラク問題に絡めて紹介しましたが、『世界どこでも…』には他にも面白い話や興味深い議論がたくさんあります。ボランティアの現場での日本人や日本企業の活躍とか、役人がいかにひどいかとか、日本の伝統文化に見られる隠れたキリスト教文化の話とか、海外のボランティアの実体とか。

一番興味深かったのはケンのやり方。いきあたりばったりのように見えてゲリラ的な、僕みたいな頭の固い人間には「そんなのあり?」と思ってしまうような強引なやり方で数々の支援活動を成功させてきたこと。やられた側(官僚組織とか)にしてみれば(言葉は悪いですが)一種のテロに近いようなやり方が痛快で新鮮でした。


*1:人間として、とか常識とか言うと首をひねる人もいるかもしれませんが、ケンはキリスト者なこともあって助け合い精神のような価値観に普遍性があると考えているわけです。