性犯罪者の再犯率

どうも既に TV などで怪しげな数字が流布しているそうで。僕自身は未確認ですが id:deadletter さんのタレコミ([id:rna:20041231#c])によると、TBSの「サンデーモーニング」で、再犯率41% (警察庁調べ)」という数字が出ていたそうです。deadletter さんがTBSに確認したところ、

の「43 業種別初犯者・再犯者別」という表の「公然わいせつ」の総数 1,456 人に対して再犯者 611 人というのが根拠だそうです。なぜ公然わいせつ? と思いましたが計算すると 41.96% で合わないので、たぶん「強制わいせつ」(総数 2,273 人に対して再犯者 935 人 )の間違いだと思います。こちらだと 41.14% になります。が、それ以前に、、、これって(特定の年の)「再犯者率」であって「再犯率」ではないです。

再犯率」は、処分された犯罪者のうち一定期間内に(あるいは死ぬまでに)また犯罪を犯す者の割合です。それに対して「再犯者率」はある年に処分された犯罪者のうち再犯者が占める割合です*1。一般に「再犯率」は「再犯者率」とは一致しません。「再犯者率」が同じでも「再犯率」は(理屈の上では) 0% 〜 100% まで幅がありえます。

たとえば今年処分された犯罪者は A さんと B さんの二人だったとします。A さんは再犯で、B さんは初犯です。この年の「再犯者率」は 50% です。翌年には A さんと C さんが処分されました。A さんは当然再犯、C さんは初犯。この年も「再犯者率」は 50% です。こんな感じで毎年 A さん + 別の初犯の人が処分される、というのが 10 年続くとすると、「再犯者率」は毎年 50% ですが、「再犯率」は約 9% になります。

また、二年目で B さん(再犯)と C さん(初犯)が処分され、三年目は C さん(再犯)と D さん(初犯)、四年目は D さん(再犯)と E さん(初犯)…というパターンで再犯者は全員前科一犯になっているとすると、「再犯者率」は同じく毎年 50% ですが、10年目の時点での「再犯率」は約 91% ということになります。

どちらも極端な仮定ですが、一般に「再犯者率」からは「再犯率」(あるいはある犯罪の再犯性が高い/低いといった情報)は全くわからないという点はご理解頂けるかと。*2

再犯率」に近い数字として犯罪白書には保護観察が終了した者のうち保護観察期間中に再犯を犯して処分された者の割合に触れている部分があります。手元の平成14年版だと、上位に来るのは、仮出獄者で放火(3.3%)、殺人(1.8%)、強盗(1.8%)の順、保護観察付き執行猶予者では詐欺(43.9%)、恐喝(41.0%)、窃盗(41.0%)、覚醒剤取締法違反(37.8%)の順で、性犯罪は出てきません(p139-140)。ただし、仮釈放や執行猶予の割合が罪種によって違いますし、期間満了で出獄した人が含まれませんし、保護観察期間の9割は1年以内で短すぎるし、ということでこれもいまいち頼りない数字です。

そんなわけでやっぱり「再犯率」はよくわからんわけです。たぶん特に高くはないんだと思いますが。とはいえ、「性犯罪」という大雑把な括りではなく、プロファイルを絞りこめば高い再犯率というのはあるのかもしれませんが(僕はあるんじゃないかと思っているけど)、そういう統計も日本では見かけないわけで。。。

*1:ただし前回犯した犯罪が今回とは違うものも含めて一律再犯扱いにしているので、罪種毎の再犯性は見えにくくなっています。このへんは「44 罪種別前科数別検挙人員」という表で同一罪種の前科があるのをピックアップすればはっきりするはずですが、いずれにせよこれは「再犯率」ではないし、ミーガン法の文脈だと「同一罪種」という縛りは狭すぎる(性犯罪の再犯性と言うと強制わいせつがエスカレートして強姦に、みたいなのも含むので)ので、怪しい数字にしかならないでしょうか深入りしません。

*2:とはいえ何か理論的に妥当な仮定をすれば「再犯者率」と「再犯率」が一致するということがあるのかもしれません。仮にそうだとして「再犯者率=41%」というのが高いのか低いのか? 同じ表で同様に他の犯罪の「再犯者率」を計算してみると、殺人が約 50%、強盗が約 45%、放火が約 45%、強姦が約 50%、凶器準備集合が約 57%、暴行が約 46%、傷害が約 50%、脅迫が約 61%、侵入盗が約 57%、乗り物盗が約 33%、非侵入盗が約 34%、詐欺が約 55%、横領が約 35%、、、というふうに 41% が特別な数字とはとても思えないわけで。。。