「再犯率」より「再犯者率」が重要になる場合

以下まだ直しが入る可能性があるので引用はなるべく避けて下さい

ここ数日「再犯率」「再犯者率」の違いに拘ってきましたが、単純に混同するのが間違いというのは別にして、なぜ「再犯率」に拘るのかを確認。

というのは、条件次第では「再犯率」はどうでもよくて「再犯者率」の高い罪種をターゲットにして再犯防止策を打つのが犯罪を減らすのに効果的、ということがあり得るからです。

再犯率」が関係ない場合

今ここに犯罪者個人に対して何かするという類の再犯防止策があり、これが罪種によらず一定の率で再犯率を低下させる(この率を以下では再犯抑止効果と呼びます)と仮定します。この防止策にはそれなりのコストがかかり、全ての犯罪者に適用するのは無理なので、適用対象を絞り込まなければならないとします。

絞り込む方法は色々あり得ますが、何かの事情があって、社会に対する危険度が同じくらいの何種類かの罪種の中から一つを選ばなければいけないとします。この場合「再犯者率」が一番高い罪種を選ぶのが一番効果的な(コストパフォーマンスが良い)選択になります。「再犯率」はここでは全く関係してきません。

この条件では犯罪減少率は再犯率と関係なく再犯者率に比例します(はずです…補遺参照)。例えば100%確実な再犯抑止効果がある(再犯率が 0 になる)なら再犯者数はゼロになり、犯罪を「再犯者率」の分だけ減少させます(初犯者数は毎年一定で再犯防止策の影響を受けないと仮定)。「再犯者率」50% なら対策後は犯罪が半減することになります。

(macska さんのコメントを受けて追記) 犯罪白書などで再犯の問題をなぜか再犯者率を見て検討している(平成14年版の特集など)ことがあるのは何故だろうと思って考えてみたのがこれです。この話はことさらミーガン法を支持する材料にはならないというのは同意します。再犯者率についても性犯罪が特別高いということはなさそうですし、ミーガン法の一般告知という再犯防止策自体の効果が怪しいので。もっとも、「凶悪犯罪(殺人、強盗、強姦、傷害)」の中では強姦は再犯者率が高い(傷害の方が多いけど、程度の重い傷害致死は低い)というのはあります。9% 程度で絶対値は低いけど。今問題になっている強制わいせつ→強姦みたいなコンボをカウントしたらもっと上がりそうではありますが。

ではなぜ「再犯率」が大事なのか

上の考察は色々仮定があるので現実的にどうかは微妙なのですが、効果的に犯罪を減少させることだけ考えればよいという立場に立つなら「再犯者率」だけ見ればよいということは有り得る、ということは言えそうです。

ではなぜミーガン法の議論において「再犯率」が出てくるのかというと、ミーガン法の場合は再犯防止策そのものに問題があるからです。ある犯罪の「再犯率」が高いということは、その犯罪の前歴のある人は犯罪を犯す危険性が高い、要注意人物ということです(そういう考え方自体問題はあるけどそれはひとまずおく)。「再犯率」が低ければそういう疑いは不当であり、何かと弊害も多い一般告知の対象にすることは正当化できません。疑うに足る十分な根拠として「再犯率」の高さが問題にされるわけです。

犯罪を減らすというだけならコストパフォーマンスに関わるのは「再犯者率」だけということがあり得ますが、その場合でも前歴の一般告知という再犯防止策に伴う社会的コストを計算に入れると「再犯率」を考慮する必要がある、ということです。

逆に言えば市民の安全こそが第一で加害者の人権を軽く見る立場に立てば「再犯率」はあまり関係なくて「再犯者率」こそが重要ということになるのかも。うーん。。。

今後マスコミが(両者の混同はまず解消するとして)どちらを使って議論するのか気になります。

補遺: 再犯者率と犯罪減少率の関係

素人計算なのでいまいち自信なし。変なところがあったらご指摘下さい。アイデアの一部はある方から頂いたメールを参考にしました。感謝。

未犯者が一定期間に犯罪を犯す確率(初犯率): v
既犯者が一定期間に犯罪を犯す確率(再犯率): w

全人口: P
全人口のうち既犯者の占める比率: p

犯罪数: P(1-p)v + Ppw
再犯者率: x = Ppw / (P(1-p)v + Ppw)
初犯者率: 1 - x = P(1-p)v / (P(1-p)v + Ppw)

上の条件で再犯防止対策をとる場合を考える。

再犯抑止効果: e (対策によって w が we になるとする)

対策時の再犯数: Ppwe
対策時の犯罪数: P(1-p)v + Ppwe

犯罪減少率 = (対策前の犯罪数 - 対策後の犯罪数) / 対策前の犯罪数
           = 1 - 対策後の犯罪数 / 対策前の犯罪数
           = 1 - (P(1-p)v + Ppwe) / (P(1-p)v + Ppw)
	   = 1 - ((1 - x) + xe)
           = 1 - 1 + x - xe
	   = (1 - e)x

よって犯罪減少率は再犯率と関係なく再犯者率に比例する