罪を憎むか人を憎むか

大変気が滅入るお返事([id:kaerudayo:20050114#p1] 後半)。むき出しの敵意は別に僕に向けられているわけではないのだろう(と信じたい)けど、性犯罪者と自分を区別する根拠はあやふやで流動的だと思っている僕としては。

「過ち」というのは自覚される場合もされない場合もある。罪を償うというのは第一にそれを自覚することであり、自分が何を償っているのかを自覚しないままではどんなに過酷な刑罰を受けても償いにはほど遠い。

様々な理屈で自分の犯した罪を正当化し、過ちを認めない性犯罪者が少なからずいるというのは事実だろう。児童性虐待で(襲撃型に対して)誘惑型と呼ばれるタイプでは手の込んだやり口で「同意があった」「相手がそれを望んだ」と自分が納得できるような状況を作ったりもする。

でも正当化が必要になるということは正当化なしでは罪悪感を感じてしまうということでもある。犯罪者の口からどこかで聞いたようなステレオタイプな自己正当化の理屈が出てくる時は本気でそう思っているというよりも、言い訳とか逆切れとかそういう類のものと思った方が良いのではないか。自分の理性が、あるいは世間が自分に押しつける耐え難い罪悪感から逃れようとする反応であると。

また、仮にステレオタイプな正当化の理屈(「誘惑する女」とか「男はそれを我慢できない」とか)を本気で信じているのだとしても、それは人間性の問題を意味するのだろうか? 単純に現実を知らないだけ、現実を知る機会が乏しかっただけかもしれない。kaerudayo さんが示唆するように女性差別的な正当化の理屈が世間に当たり前のように流通していて性犯罪者に限らず広く一般的に受け入れられているということは、裏を返せばそれを受け入れる事自体は犯罪者個人の人間性の問題には帰着できないことを意味する。

現実に認知行動療法のような方法で現実感覚のゆがみを修整し性犯罪の再犯をある程度抑制できるという事実がある(参照: ミーガン法のまとめ:性犯罪者更生プログラム)し、ご大層な治療などなくても罪悪感を感じ反省し更正した性犯罪者は実際いるのだから、性犯罪は「治らぬ病」ではないということも指摘しておきたい。

その他細かい論点について。

  1. 男社会は性犯罪に寛容か
  2. 性犯罪はエスカレートするのか(例えば、覗き→露出症→痴漢→強制わいせつ→強姦→強姦殺人 みたいに発展するものなのか)
  3. ミーガン法(一般告知)は効果があるのか
  4. 暗数、行方不明者の扱い
  5. 模倣犯』『テッド・バンディ』

kaerudayo さんは言葉によるセクハラや電車の痴漢を引き合いに出して 1 を示唆するような書き方をしているけど、実際には性犯罪者は男社会では激しい非難や攻撃を浴びる。刑務所で性犯罪者が他の犯罪者から虐待を受けたりするという話も聞く(イギリスでは虐待防止のため性犯罪者は隔離収容される)。ただしそれは被害者の痛みに共感してというよりは「男社会の恥」みたいな扱いかもしれず、女性から見ればあまり意味のないことかもしれないが。

2 は「性犯罪」をひとくくりにする理由になっていると思うけど、ちょっと信じがたい。強姦未遂が証拠不十分で強制わいせつになったりみたいな形で見かけ上発展系列が見られることはあるかもしれないが。

3 についてはミーガン法のまとめ:ミーガン法の現在を参照。まだ研究は少ないが、今のところ効果を否定する研究はあっても効果を認める研究は見当たらないとのこと。

4 について、性犯罪の暗数がかなりあるというのは病院がとった統計や一般人口に対する調査などでわかっている。被害にあっても届け出ない率は強盗や暴行、脅迫などに比べて高いという調査がある(法務省総合研究所 犯罪被害実態(暗数)調査結果)。再犯率を検討する際には暗数を考慮した補正が必要かも。行方不明者については性犯罪と関連付けるデータを知らないのでなんとも。

5 どちらも未読なのでなんとも。ただ、2 の問題とも関係するけど、いわゆる「快楽殺人」を性犯罪一般の傾向のように扱うのは疑問。