emulated mind : キモオタの生きる道

映像系技術評論家の小寺信良氏のコラム。ITmedia のこの人のコラムはよく読むがオタ論は初めてかも。僕的には宮台真司酒鬼薔薇事件の時に言い出した「脱社会的」という言葉がフツーに使われているのが感慨深い(ちょっとゆるく使いすぎの感はあるが)。

このコラムはキモオタをコミュニケーションスキルに問題のある下流オタと位置付け、「キモオタ = 脱社会的存在」という図式でキモオタの問題点を論じたもの。キモオタの類型としてアイドルオタを挙げていたので僕も震える決心でキモオタを自称しようかと思ったがどうも微妙に違うっぽい。いや、違わないかな? うーん。

たとえばアイドルオタだと、アイドルを他者として見れず適切な距離感がとれないタイプがキモオタで、街で見かけた芸能人になれなれしく声をかけるオバサンなんかもある意味同類というのが小寺氏の定義。この距離感の錯覚がインターネットによるファンとアイドルの直接的な交流で加速され互いに傷つけ合う形になりはしないかと小寺氏は懸念する。

以下は僕の私見

古くて新しい問題

ある程度売れてきたアイドルなら昔からこういうリスクはあったわけで、小寺氏の懸念にいまさら感はある。しかし、ネットを使って自分を売り出そうとするアイドルの卵みたいな位置にいる人たちの場合、アイドルとしての自覚が低い上、事務所のガードもないままに不特定多数のファンと交流してしまうため、よりリスクが高い状況が生まれているということは考えられる。

古くて新しい問題と言えるわけだが、その新しい部分はキモオタ側の問題というよりはアイドル側の問題ではないだろうか。

脱社会性とキモオタ

「脱社会性」という言葉を小寺氏がどういう意味で使っているのかも微妙なのだが、この言葉の生みの親である宮台真司人格障害の説明に使っていた*1。ただしこれは「脱社会性」を病気だと言っているのではなく、その逆で、人格障害はある種の生育環境での正常な学習の(というか社会性を学習せずに育った)結果であり、病気ではないということ。*2

もっとも、宮台氏が「脱社会的存在」として例示していた愛知県豊川市主婦殺人事件の犯人は後にアスペルガー症候群であることがわかっていて*3人格障害だけが「脱社会的」であるというわけでもないようだ。

おそらく小寺氏はもっとゆるく「他者を想像できない」というあたりの性質を指して「脱社会性」と言っているのだと思う。人格障害の場合は(宮台説によれば)後天的に、アスペルガーなど自閉症圏の病気の場合は(医学的な通説によれば)先天的に、自分の心の中で他人の心を想像することで他者に共感することができない。

脱キモオタは可能か?

確かにキモオタ的脱社会性は迷惑なばかりでなくオタ本人にとっても不幸を招く不合理なものだ。しかし、その不合理さを指摘することで脱キモオタを促せるものだろうか? 「キモオタ = 人格障害 or アスペルガー」はきわどい仮説だと思うが、おそるおそるこの仮説にそって考えるなら脱キモオタは「極めて困難」と言うしかない。

臨床では人格障害の治療は困難とされているし、宮台氏も大人になった「脱社会的存在」に社会性を獲得させるのは困難と考え諦めている*4

アスペルガーは先天的な脳機能の障害で今の医学ではその機能を取り戻す方法はないが、人はこういう場面ではこう考えるというのを if/then ルール的に片っ端から学習していくことでなんとか日常生活を送ることができるという。しかしこういう方法は負担が大きいし、柔軟性に欠けるため未知の場面で他人の心を想像することは困難らしい。

心をエミュレーションする

ここで、アスペルガーの人がやっているのはネィティブな共感性の欠如を、他人の心をエミュレーションすることで補うということだと思う。キモオタの実態がなんであれ、大人になってから共感性そのものを養うことが困難なら、脱キモオタにはこのやり方しかないのかもしれない。

とはいえ、エミュレータがサクサク動くにはエミュレーションの対象になるシステムの3倍くらいのCPUパワーが必要になるように、心のエミュレーションも精神的にはかなり負担がかかる。結局処理しきれずに無駄に終わることも多いし、そもそも理詰めじゃ解決出来ない部分もあると思う。どうやってそんな大変な事をやらせるのか。

「人に迷惑をかけずに生きる」みたいな消極的な目標はインセンティブになりにくい。頑張ってもネイティブの人にはかなわないので成功に繋がるというよりは失敗回避の意味合いが強いからやっぱり消極的。

僕自身かなり共感性に乏しい人間で、それで随分人に迷惑をかけてきたし、そのしっぺ返しで痛い目にもあった*5。それで反省して「心のエミュレーション」をやるようになったのだけど、負担重いです。なんとか続いてるのは痛みを思い出すからで、ほとんど強迫的にやってる感じ。胸を張って他人にすすめられる感じじゃないです。

そして非モテ論へ?

なんだかわからんけどそういう方向に流れていきそうな気がする。


*1:サイファ 覚醒せよ!』(ISBN:448086329X)

*2:このあたり医学的に妥当な話なのかどうか不明。

*3:この件については2002-02-11 の日記を参照。

*4:だから教育改革等の施策でこれ以上「脱社会的存在」を作らないようにしようと提案していた。

*5:恋人に愛想尽かされたりとか。