石川元『隠蔽された障害』に対する遺族の反論

山田花子『自殺直前日記』/石川元『隠蔽された障害』で紹介した『隠蔽された障害』は同エントリでも紹介したように山田花子の両親から抗議を受け絶版になっている。伊藤剛さんのエントリ『隠蔽された障害』が絶版になった理由に抗議の内容の一部が紹介されていたが、僕も確認のために「アックス 29号」を入手した。

何を確認したかったかというと、遺族が「事実誤認」とする部分。石川氏の研究が誤認された事実に基づくものなら倫理的問題とは別に論理的にも問題があるということなので。見たところご両親の主張で石川氏の分析に直接関わりそうなものは二点。

まず、死後確認された山田花子の預金の額は800万円ではなく300万円だったというもの。『隠蔽された障害』ではこれが「異常な将来不安」の根拠になっている。300万だと無職なら1年先の自分が見えないだけでもかなり不安になれる額。山田花子の当時の状況では異常とは言えないと思う。

もう一つは、山田花子が編集者にセクハラされたのは捏造ではなく事実であり、セクハラ被害を周囲に吹聴したこともない(編集長には訴えたがとりあってもらえなかった)、という主張。『隠蔽された障害』ではこれが「被害感を伴う行動化」の例として挙げられている。

石川氏がセクハラは事実でないとした根拠はセクハラ加害者とされた編集者に取材して書かれた大泉実成の『消えたマンガ家』。一方、セクハラの噂を吹聴というのは大泉氏の記事にはなく、根拠が見当たらない。ご両親によると「私達が確認しえた限りでは、当時つき合いのあった作家、編集者の誰一人、由美子本人からも、私達からもセクハラの話を聞いた人はいなかった」とのことなので、石川氏のほうが勘違いか捏造しているように思われる。

この二点だけで石川氏の分析全体を否定することはできないと思うが、事実確認がいいかげんな割に病気の根拠として大袈裟に扱っているあたり、信頼性に難があるという印象は強まった。