白燐弾使用の何が問題か

イスラエルのガザ攻撃で白燐弾が使われいることについて議論がある。

イスラエルを非難する人たちは、人口密集地に白燐弾を打ち込むと人に対して焼夷効果があり人道上問題であること、また白燐の燃焼過程で発生する生成物(五酸化二リン)が皮膚や粘膜に付着すると組織を腐食しひどい薬傷を引き起こすという化学兵器に似た効果があり、やはり人道上問題があると主張している。

一方、右派というか軍オタ的な立場の人からは、白燐弾は本来煙幕を出すためのものでたいして危険ではない、焼夷弾化学兵器と同列に見るのは間違いだと主張している。

僕は最初、イスラエル軍は最初から要人暗殺に平気でロケット弾とか使うアレな奴等なのに、今更白燐弾で非人道的とか言うのはズレてないか、と思っていたのだが、どうもそうとも言えない気がしてきたので考えを整理するためにメモ。

まず、白燐弾の殺傷力がどの程度なのか、そのあたりがどうもわからない。弾一発(ガザで使用されたとされる M825A1 の場合、50g の白燐の破片が116個ばらまかれるという)で kom' s log で書かれたような被害を受ける人がどのくらいの確率で出るのかわからない。そして実際に白燐弾がどのくらいの範囲に何発打ち込まれているのかもわからない。

もっとも、実際に白燐弾によるものと思われる激しい火傷を負った被害者が複数存在する以上、煙幕弾だから安全というレベルではなかったのだろう。しかしそれが不幸な事故なのか必然的に発生した被害なのかというとよくわからない。

ただ、ファルージャ白燐弾が使用された際の状況からすると、街中で大量の白燐弾を使用すればかなりの殺傷力が発揮されるというのは確かなのではないか。少なくとも使い方次第では非人道的な兵器としても使えるということだ。

それに対して週刊オブイェクトでは次のように反論している。対人殺傷を目的とした場合、白燐弾は効率が悪すぎる、殺傷目的なら普通の榴弾を使うはずだ、と。

だがこれは理屈がおかしいのではないか。いくら効率が良くても、いや効率が良いからこそ、民間人が多い人口密集地に榴弾を打ち込んだら大問題になる。白燐弾は煙幕弾だと言い訳できるのでそういう場所でも使える便利な兵器、ということなのではないか?

イスラエル軍は民間人の犠牲者が出ること自体は恐れていないようだが、言い訳できない形で民間人を殺傷することは避けていて、砲撃や爆撃は軍事目標に限定しているはずだ。しかしそれだと武装勢力がややこしい場所に紛れ込んだ場合は攻めあぐねてしまう。

そこでそのような場所では言い訳できる兵器として白燐弾を使っている、という可能性はないか? 効率が悪いので武装勢力を殺傷することは難しいだろうが、民間人の犠牲者を出すことで戦略爆撃的な効果を期待できるのではないか?

だとするなら、ガザ攻撃を認めない立場からは、言い訳できる兵器の言い訳を容認するわけにはいかない。攻撃ではないと称して攻撃できる抜け道は塞いでおかなくてはならない。そういう意味では白燐弾使用を非難するのは意味のあることなのではないかと思った。

もっとも、イスラエル軍にそこまで積極的な意図があって白燐弾を使用しているという証拠もないと思う。主目的は煙幕で武装勢力の活動を妨害するというあたりではないか。それでも、民間人に犠牲者が出るだろうけど言い訳可能だし躊躇わず白燐弾を使おう、というような未必の故意ぐらいはあってもおかしくないと思った。

ブクマにお返事

wiseler それもちょっと違います。そもそも市民に被害が出るような状況では何を使っても国際法違反です。イスラエルの使用状況と白燐弾の性質はまた別なのです。っていうかイスラエルがおかしすぎるのです……

何を使ってもということですが、仮に白燐弾がただの発煙弾で、たまたま直撃された不幸な人が火傷を負っただけということであれば国際法違反にはならないしここまでの騒ぎにもなりえないのでは?

そしてガザでの白燐弾の使用が国際法違反かどうかは法解釈論としてははっきりしないと思います。France 2 の取材にイスラエル当局は白燐弾の使用自体は否定しない形で違反ではないと主張しています。

人権団体が白燐弾に反対するのはどちらかというと立法論的な立場からだと思います。国際法に違反していること自体よりも、国際法の趣旨に反することを問題としており、法解釈がどうあれガザ地区のような場所に対する白燐弾の使用はやめるべきだ、ということだと理解しています。

pbh 軍オタが文句言ってるのは「白燐弾は特別非人道的な殺戮兵器」「白燐弾は超兵器」ってデマに対してであってイスラエルの非人道的行為を擁護してる訳じゃなくね?

白燐弾が通常榴弾より殺傷力が劣る理由 : 週刊オブイェクト に関して言えば、白燐弾使用は実態と意図の両面から非人道的行為ではないという方向の主張だと思います。

NOV1975 [議論] 「戦争イクナイ」というのとほとんど変わらん。/イスラエルは使用禁止されている兵器を使った⇒デマとしか軍オタは言ってないように思えるんだけど。

戦争イクナイで済むなら白燐弾云々はどうでもいいことです。戦争がある程度進んで、そこから先は民間人犠牲者が増えるので攻めあぐねる、という状況からさらに一歩進めないように、今以上に犠牲者が増えないように、白燐弾でもダメだよ、と言う必要はあるかもしれない、ということを書きました。実際そういう状況なのかどうかは把握していないので、可能性として、ですが。

イスラエルは使用禁止されている兵器を使った」はミスリーディングな物言いだとは思いますが、それを単純に「デマ」とまで言えば、それもまたミスリーディングだと思います。

inumash [社会] この主張は筋が悪すぎる。「イスラエルは学校や避難所など市民の損害を気にせず砲撃・爆撃している!」というのが反戦派の基本的な主張でしょう。このエントリはそれを覆してる。デマはどう言い繕ってもデマだよ。

デマというのは具体的には何を指しているのでしょう? このエントリにデマが含まれているということでしょうか? このエントリのコメント欄でもご自分のダイアリーでもよいので説明してもらえないでしょうか。

イスラエル当局は市民に損害が出ないよう気にしていると主張しています。そのタテマエを逆手にとって、なるべく早い段階でガザ攻撃が手詰まりになるように、これ以上攻撃範囲を広げれば言い訳できないという範囲が狭くなるように、圧力をかけるという意味で白燐弾を使用しないように求めるのならアリだと思いました。それで一人でも犠牲者が減るのなら。

イスラエル当局のタテマエに対しては、僕としては嘘つけ! と思うし、本当だとしても「気にしていても誤爆はあるけどそれが戦争なのよね」的なスタンスなわけですから、それには反感を覚えますが、イスラエル市民はその言い訳に納得しているので「市民の損害を気にせず砲撃・爆撃している!」と詰め寄ってもなかなか動きません。

白燐弾使用が問題化され、イスラエル当局が軍事目標とは断言できない曖昧な場所でも白燐弾なら使えると主張するなら、巻き添えが出ても軍事目標への攻撃である限り正当化されると判断していた人にとっては、今までとは違った新たな判断が迫られます。そういう判断を促す問題提起は微力ながらもイスラエル市民を動かす力になりうるのではないでしょうか?

もちろんガザ攻撃に対する非難としてこれは本筋ではありません。でも筋が悪いとも思いません。