「コーヒーを買うように13歳の女の子を買う」という話について

やっぱり一度書いておくか。人権活動家の藤原志帆子氏のスピーチの話。

まず、人身売買で日本に売られた少女が売春させられている、という話は実際にある。藤原氏の韓国人被害者の話も、地方都市で13歳の少女が売春を強要されたという話も、十分にありうる話だと思う。

ななころびやおき『ブエノス・ディアス、ニッポン』(ラティーナ)には、コロンビアから現地ブローカーを通じて日本のヤクザ組織に売られた16歳の少女の話がある。彼女は来日から1年半の間、地方都市のストリップ劇場を転々として、そこで売春させられていたという。いわゆる「マナ板ショー」(ステージ上で客と行為する)や、ショー後の売春だ。

ブエノス・ディアス、ニッポン―外国人が生きる「もうひとつのニッポン」

ブエノス・ディアス、ニッポン―外国人が生きる「もうひとつのニッポン」

彼女は貧困からコロンビアにいた頃から(おそらく13歳の時には既に)個人売春をしていたが、それでも日本での強制売春の労働環境は過酷で辛いものだったという。逃げることもできない。彼女の同僚は逃げだそうとしたところを見つかってヤクザにペンチで歯を抜かれている。

話の性質上細かい日付や場所は改変されている可能性があるが、2000年代初頭の話だ。また、同書によると、2003年2月に行われた警察のストリップショーの取り締まりで14歳のコロンビア人少女が見つかった事が報道されているという。

しかし、藤原氏の話の後半に出てくるデリヘルのスマホサイトで女性を選んで買春するという話が、この手の児童売春と繋がるとは思えない。表のサイトで児童買春が大っぴらに行われているというのは聞いたことがない。

裏サイト的なところがあるのかもしれないが、風俗には結構ハマったことのある僕でもそんなサイトは見たことがない。児童ポルノや児童買春に関わる会員制のクローズドなサイトはあるらしいが警察に摘発された時に報道で知る以外には知る機会もなかった。

藤原氏がたまたま「隣に座った男性がスマートフォン」を見て知ったという語り口からして、そのサイトが児童買春をやっているかどうか裏を取っているようには見えないし、そんな偶然で裏サイトを見かけるというのもありそうにない。学園系イメクラのサイトでも見て勘違いしたのではないかというのが正直な感想だ。

学園系イメクラというのは、女性が女子高の制服や体操服などのコスプレをするヘルスサービス店だ。プロフィール写真にはフォトショでそれっぽく加工された制服姿の女性が、公称年齢18歳とかで載っていたりするので「表」の事情を知らない人なら勘違いしそうだ。

「裏」の事情を知っていると18歳とか言って実は未成年者なのでは?と疑いたくなるかもしれないが、「表」の事情はむしろ逆で公称年齢は5歳ぐらいサバを読んでいるのはザラだという。実際僕が5年程前にお気に入りにしていた公称22歳の女性は実際には28歳だと言っていた。

彼女はオタクな話題が通じる人で、キャラのコスプレだったら何がいい?と聞かれて僕が「モリガンとか…」と答えたら「ああ、ヴァンパイア・セイヴァーの…」と返してくるぐらいなので、当時22歳以下というのは考えづらい(ヴァンパイア・セイヴァーは1997年出荷)。

この手の風俗店には店舗型もあるが、多くはデリヘル(デリバリーヘルス)だ。デリヘルと言ってもラブホテル街にある受け付けの近くのラブホテルでプレイするという名ばかりデリヘルみたいな業態も多い。これは店舗型風俗の新規出店が規制強化で極めて困難になっているからだ(参考:店舗型性風俗特殊営業 風俗営業許可 大阪 行政書士雨堤孝一事務所店舗型性風俗特殊営業 風俗営業許可×大阪申請NET)。

なので、藤原氏がデリヘルの普及を性風俗産業の洗練の結果のように語るのには疑問を感じる。ぶっちゃけデリヘルは買う方も売る方も面倒なのだ。

買う方の都合で言えば、自宅に呼べるのは一人暮らしで近所付き合いがない場合に限られるし、繁華街から遠い地域では交通費も数千円取られるし長時間コースのみに制限される。部屋の掃除も風呂掃除も必要で、待ち時間も数時間くらいかかることがある。なにより業者に住所氏名電話番号全部握られるのはストレスだ。

事務所の近くのホテルから呼ぶ場合なら「女の子の画像をスクロールして、選んで、ホテルを選んで、それから会う時間を決めて、数十分後には」デリバリーというのもあり得るけれど、それだと結局店舗に行くのと変わらないし、サイトの「女の子の画像」はほとんどの場合顔出しNGで、まともな写真は事務所の受付に行かないと見られない。

売る方の都合については、待機所のある店の場合は他の女性との付き合いが面倒だったり、互いに面倒なので待機所の雰囲気が殺伐としていたり、というのがあって、できれば個室で待機できる店舗型の方がいい、という話を店の女性から何度か聞いたことがある。

経営面でも店舗型が望ましいようで、派遣型風俗の届けで実質店舗型(事務所と同じワンルームマンションの部屋を借りていてそこに女性が待機している)で営業して風営法違反で摘発され廃業した店もあると聞く。

もちろん、デリヘルに限らず風俗のサイトが表に堂々と公開されていて、子供でもアクセスできてしまうという現状は、警察による地理的なゾーニングが無力化されて、偏った「性の商品化」イメージが拡大再生産されかねないという点で、決して望ましいとは言えないとは思う。

しかし、未成年者が「性の商品化」を煽られて参入したのは、90年代のいわゆるブルセラ・援交ブームから始まったことで、ネット以前から続いている現象だ。「モラルの変化」があったとしたらその時からだ。むしろ2000年代は児童ポルノ禁止法や出会い系サイト規制、携帯電話の有害サイフィルタリング義務化などで法的規制は強化されてきた。

もちろん脱法的な「JKビジネス」やスマホアプリによる規制回避などで規制が追いついてない面はあるが、ログミーの「スマホ1台で簡単に風俗店を予約できるようになり、性産業の”洗練化”が進んでいるようです」という説明にはずいぶんと誤解があるように思える。

「性の商品化」の是非については、まだまだ勉強中なのでここでは深入りしない。しかし、実態を歪めて伝えたり、誤解を招く表現で恐怖や嫌悪を煽ったりすることで促される「人々の意識の変革」が望ましいものになるとはとても思えない、ということだけは言っておきたい。

(初出: note)