「小児わいせつの再犯率は84.6%」って本当?

結論から言うとデマだと思われます。

国民民主党代表の玉木雄一郎議員が Twitter でこんなツイートをしていました。

あらかじめお断りしておくと「性犯罪歴のある者を教育や保育の現場に立ち入らせない仕組みが必要」というのは個人的には賛成です。性犯罪の再犯率の相場は1割〜3割(統計の取り方によって異なります)程度で大半は更生すると言ってよいのですが、被害の深刻さを考えればやむを得ないかと思います。

「84.6%」のソース

さて、それにしても「小児わいせつは84.6%と再犯率が高い」というのは初耳です。一体ソースはどこでしょう?と思ったら terazzo さんがそれらしきソースを発見していました。。

平成27年版犯罪白書の特集「性犯罪者の実態と再犯防止」の中にある、以下の記述がソースではないかということです。

同型性犯罪前科のある者の割合は,調査対象事件中の性犯罪により強制わいせつ(その他)型と類型化された者で,44.0%と最も低く,次いで,単独強姦型で63.2%,小児わいせつ型で84.6%の順であった。
平成27年版 犯罪白書 第6編/第4章/第5節/3

これは一体どういう数字でしょう?

まず、この章で調査対象にしているのは「性犯罪前科2回以上の者」です。6-4-5-6図 性犯罪前科の推移(単独強姦型)などを見るとわかりやすいのですが、最後に性犯罪で捕まった犯罪者のうち、前科として性犯罪が2回以上ある者、という意味です。

ここでは最初から再犯者だけを対象にしています。なのでこの章の統計には再犯しなかった者は一切出てきません。なので、 再犯した者の数÷(再犯した者の数+再犯しなかった者の数) であるところの再犯率は出てきません。実際この章に「再犯率」という言葉は一つも出てきません。

では84.6%というのは何でしょう?これは6-4-5-10図 性犯罪前科2回以上の者 同型性犯罪前科の有無別構成比(類型別)を見るとわかりますが、「小児わいせつ型」の性犯罪を犯した犯罪者のうち以前にも「小児わいせつ型」の性犯罪を犯していた人の割合です。

http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/62/nfm/images/full/h6-4-5-10.jpg
平成27年版 犯罪白書 第6編/第4章/第5節/3

ここからわかるのは「小児わいせつ型」の性犯罪者の再犯性ではなく、「小児わいせつ型」の性犯罪者の大半は子供ばかり狙う(大人は狙わない)という傾向です。

ちなみに痴漢(公共の乗り物内におけるもの)は100%です。もちろん痴漢の再犯率が100%であるなどというわけではなく、痴漢は痴漢ばかり繰り返す傾向がある、ということです。

そういうわけで、もし玉木氏の挙げた数字のソースが上に挙げたものであるなら、その数字は統計の読み違いによる誤りであると言えます。

実際の再犯率は?

84.6%が間違いだとして実際の再犯率はどの程度なのでしょう?性犯罪一般の再犯率については平成19年版犯罪白書の特集「再犯者の実態と対策」に調査結果が載っています。

7-3-4-16図は,70万人初犯者・再犯者混合犯歴のうち,1犯目が性犯罪であった者(1万898人)について,その後の再犯状況を見たものである。

7-3-4-16図 1犯目が性犯罪の者の再犯の有無別構成比

http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/54/image/image/h007003004016e.jpg

 1犯目が性犯罪であった者のうち,30.0%がその後再犯に及んでいるが,再犯の中に性犯罪を含む者は5.1%にとどまっている。すなわち,1犯目が性犯罪であった者のうち24.9%は,その後犯した再犯すべてが性犯罪以外の罪名であったことになる。
平成19年版 犯罪白書 第7編/第3章/第4節/5

いわゆる「性犯罪の再犯」という意味では再犯率は5.1%だったという結果でした。ただし、ここでの「性犯罪」は「強姦,強制わいせつ及び強盗強姦」に限られているので迷惑防止条例違反で検挙されることの多い電車等での痴漢の多くや露出(公然わいせつ)は含まれていません。

なお、平成22年版犯罪白書には強姦の再犯率について上の数字より大きい9.4%(再犯が強制わいせつだったケースを含めると14.7%)という数字が出てきます。*1

7‐2‐3‐1‐1図は,本件の罪名ごとに,調査対象者に占める再犯者の構成比を見たものである。再犯率は,強姦及び強盗で高く,殺人は低い。また,同種重大再犯率は,強姦,強盗及び放火で高く,強姦は,類似再犯(類似再犯及び異種重大再犯のいずれにも該当する者2人を含む。)を含めると,約16%の者が性犯の再犯に及んでいる。

7‐2‐3‐1‐1図  再犯状況(罪名別)
[hakusyo1.moj.go.jp/jp/57/image/image/h7-2-3-1-01.jpg:image:w800]
平成22年版 犯罪白書 第7編/第2章/第3節/1

いずれの数字にしても世間でイメージされているほど高くはないという印象を持つかと思います。では「性犯罪は再犯が多い」というイメージは虚構なのでしょうか?そうとも言いきれなくて、一部の性犯罪者は何度捕まっても性犯罪を繰り返すという事実があります。

性犯罪を3回以上繰り返している者は,107人(分析対象者71万2,898人のうち0.015%,1犯目が性犯罪であった者1万898人のうちでは0.98%)であった。これらの者は,性犯罪に及ぶ傾向が特に強い者であるといえよう。
 これら性犯罪を多数回繰り返した者の中には,性犯罪のみを繰り返す者も相当数いるが,他方で,性犯罪の間に性犯罪以外の罪名の犯罪を犯している者も多い(ただし,性犯罪以外の罪名といっても,公然わいせつのほか,住居侵入,略取誘拐・人身売買,軽犯罪法違反といった,性犯罪と関連する内容を含む可能性がうかがわれる罪名が含まれている場合もあることに留意を要する。)。
平成19年版 犯罪白書 第7編/第3章/第4節/5

性犯罪者の1%程度ですが、累犯傾向の強い者がいるというわけです。こういう人が悪目立ちするという事情はあるのでしょう。また、性犯罪被害の約8割は警察に届け出されない*2ことから、これらの統計にかからない累犯者が相当数存在する可能性もあります。

ここまでは性犯罪一般の話ですが、子供を狙った性犯罪についてはどうでしょう?犯罪白書では特に子供を対象とした性犯罪者の再犯率に関する統計は見当たらないのですが(平成27年犯罪白書にありました。追記を参照。)、過去にそのような統計が公開されたことがあります。

さて、肝心なのはやっと出てきた追跡調査による再犯率。子供(13歳以下)を対象とした性犯罪に限定した統計ですが、20.4% という数字が出てきました。


 1997年までの16年間に摘発された「女児対象強姦(ごうかん)事件」の容疑者506人のうち、昨年6月末までに強姦や強制わいせつ容疑で再び摘発されたのは103人で、全体の20・4%を占めた。
(中略)
同庁の科学警察研究所は、82−97年に摘発した女児(13歳未満)対象強姦事件の容疑者527人のうち、死亡や行方不明の21人を除く506人の昨年6月末までの状況を追跡調査した。強姦や強制わいせつで摘発された103人の内訳は強姦が47人、強制わいせつが76人で、両容疑で摘発された容疑者も20人いた。半数近い47人は、13歳未満の子どもを再び襲っていた。
警察庁の再犯率統計が公開 - rna fragments

先程の強姦の再犯率(強制わいせつの再犯を含めて14.7%)と比べると多いという印象ですが、追跡期間が違うため一概に比較はできません。*3 ともあれ大きな差はないというのが実情と思われます。

繰り返しになりますが、15%や20%だからといって再犯リスクを軽視してよいと言うつもりはありません。前科による特定業種への就労の禁止は再犯しない大半の人の就労の権利を奪うという面はありますが、子供の性犯罪被害の深刻さを考えるとやむを得ないのではないかという考えは理解可能です。

しかし、再犯リスクがどこまでならやむを得ないと判断するかは人によって違います。根拠となる再犯率が84.6%と20.4%では判断が違ってくるという人もいるでしょう。有権者に訴えるのであれば正しいデータを示して根拠に基づいた判断を促してほしいものです。

追記: 子供を狙った性犯罪の再犯率

すみません、子供を狙った性犯罪の再犯率について犯罪白書には見当たらないと書きましたが、「84.6%」のソースと同じ平成27年犯罪白書に載っているのを見逃していました。Twitterh_fukuyama さんが教えてくれました。

再犯調査対象者について,性犯罪者類型別に再犯率を見ると,6-4-4-3図のとおりである。性犯罪者類型によって,実刑に処せられた者の割合や調査対象事件の裁判確定から5年が経過した時点においても服役中の者の割合に偏りがあるほか,出所受刑者に関しては,再犯可能期間に長短があることを考慮に入れる必要があるが,全再犯率は,痴漢型が最も高く,次いで,盗撮型,小児わいせつ型,強制わいせつ型,小児強姦型,単独強姦型の順となっており,集団強姦型が最も低かった。性犯罪再犯率に限っても同様の傾向が認められた。なお,性犯罪再犯(刑法犯)の再犯率が最も高いのは,小児わいせつ型であり,その再犯の内容を性犯罪者類型に当てはめてみると,9人のうち8人の再犯が小児わいせつ型に該当した。

6-4-4-3図 再犯調査対象者 再犯率(性犯罪者類型別)
http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/62/nfm/images/full/h6-4-4-03.jpg
平成27年版 犯罪白書 第6編/第4章/第4節/2

小児わいせつ型で9.5%、小児強姦型で5.9% (いずれも条例違反を含む性犯罪の再犯率)、ということです。類型別では小児わいせつ型が一番再犯率が高いとありますが、これは刑法犯のみの場合で、条例違反を含めると一位は痴漢型(36.7%)、次いで盗撮型(28.6%)という順です。

小児強姦型の再犯率が2005年調査にくらべて随分少ないのですが、これは追跡期間が5年と短く、しかも裁判確定から数えて5年なので再犯可能期間がより短い者が含まれることが理由と思われます。*4

*1:強制わいせつを含めた再犯率について文中には「約16%」とありますが約15%の間違いと思われます。

*2:参照:平成24年版 犯罪白書 第5編/第3章/第2節/2

*3:平成22年版犯罪白書の強姦の再犯率は10年間の追跡調査、2005年調査の女児対象強姦の再犯率は7〜22年間の追跡調査。

*4:参照:平成27年版 犯罪白書 第6編/第4章/第4節/1