[id:rna:20040317#p1] の続き。Pajer KA.,1998 やっと読みました。専門用語や専門的な言い回しの理解がかなり怪しいし、そうでなくても英語力が怪しいので自信を持って断定はできませんが、結論から言うと、これを「援交から精神障害へ」説の根拠にするのは無理があると思います。
この論文の主張は、思春期に反社会的行動をとった少女のその後は、
- 死亡率が高い
- 犯罪率が高い
- 精神障害になる率が高い
などの傾向が見られるということです。細かい疑問はありますが*1とりあえずこれを認めるとしましょう。しかしながら、日本の「援助交際」がここで言う「反社会的行動」あるいは「行為障害」に該当するのか疑問です。
冒頭で紹介されるジェニファーの例(万引きや他の少女への暴行、家庭内暴力などを繰り返す)を見てもこの論文やレビュー対象の各論文が対象としている反社会的行動は専ら反抗的・攻撃的な行動です。ほつまさんのコメントにはこの手の研究では単なる家出のようなマイルドなものも含めているとありましたが、一方でハードな暴行などを除外していません。この論文でもそのへんは問題にしていて、非行少女でも元々攻撃性があったかどうか、精神障害を併発していたかどうかによって結果が違ってくるという研究もあるので、今後はそれを考慮した研究が必要だとしています。
「援助交際」は規範を逸脱してはいますが、攻撃的ではないし、反抗という側面も弱いと思います。どこまで一般的かわかりませんが当人達の「誰にも迷惑かけてない」から援交オッケーという感覚は裏を返せば「人に迷惑をかけない」という規範は守ろうということでもあります。
また、大人になってから出てくる精神医学的な問題というのは主に人格障害で、鬱*2との相関は低いとされています*3。宮台氏の言う「メンヘル系」の内実がわからないのですが、もし鬱を指しているとしたら行為障害とは関係ないと言えそう。
なお、メカニズムについては以下のような仮説を挙げていました:
- 生物学的・精神医学的欠陥が一貫して背景にあるから
- 前頭葉前部の機能不全のせい?
- 愛着の欠如のせい?
- 思春期の反社会的行動が正常な発育過程から著しく脱線させるから
- 大人に必要な社会的・心理的なスキルの学習を阻害されるせい?
- さらなる逸脱を選択できる状況に晒されるせい?
どれも当時(1997年)は裏付けとなる研究がなかったそうです。ちなみに前頭葉前部というのは攻撃性の抑制に関係する部位です。
(関連) [id:hotsuma:20040323#p1]、[id:hatene:20040324#p1]。
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