FPS ヤバイ、マジヤバイ

『戦争における「人殺し」の心理学』ISBN:4480088598の第八部でグロスマンは、なんとテレビゲームの悪影響で子供が暴力的になっていると主張しています。

どっかで聞いたような話ですが、さすがに「テトリスが殺人訓練になる」とかいう話ではなく、主に FPS のような人型の標的を撃つようなゲームが有害と主張してます(そしてマリオブラザーズは無害とも)。要するにこのようなゲームは現代的な軍隊や警察の訓練とよく似たオペランド条件付けとして作用し、しかも軍隊の訓練では必須の「命令がなければ発砲しない」という条件付けが行われないので最悪じゃないかという主張です。

また、暴力肯定的な映画やドラマが間違った役割モデルを与えること、特に父親のいない家庭ではメディアに登場するバイオレンスヒーローが父親がわりになってしまうことを危惧しています。

なるほど、と思う部分もありますが、銃による実際の犯罪が訓練でたたき込まれたような「反射的な発砲」によるものなのか疑問です。またアメリカにおける暴力犯罪の増加をグラフで示していますが、それがメディアの影響によるということを検証していません。メディアの影響で暴力が発生しうるという理屈を提示したり研究結果を参照したりしていますが、実際の犯罪増加に対するメディア以外の要因の影響というのはほとんど検討していません。

正直言って第八部は他の章の丁寧さに比べると取って付けたような印象があります。ページ数的にも内容の重さの割に中途半端ですし。逆に言うとグロスマン的には無理にでもこの話をしたかったのかもしれませんが。

とはいえ「一九九四年現在、二〇〇を越える研究によって、テレビと暴力の関連性が実証されている」とか、『ザ・パブリック・インタレスト』1993年春号に掲載されたという、カナダの僻地にテレビが導入された時の共同体に与えた影響、1975年に南アフリカで英語のテレビ放送が許可された時の影響(どちらも少年犯罪が増加したとされる)というのは詳細が気になります。

なお、メディアの悪影響に対するグロスマンの提示する処方箋は、合衆国憲法修正二条(武器の所有と携帯の権利)が制限されている(強力な武器の所有や携帯が認められていない)ように、修正一条(言論の自由)にもある程度制限しよう(テレビや映画、ゲームなどの強力な影響力を持つメディアに対して)、というものです。しかし、検閲制度でそれを実現するのは現状では非現実的なので、社会的な圧力で対抗しようと呼びかけています。