終わりなき少子化社会を生きろ! 『子どもが減って何が悪いか!』(その2)

赤川学子どもが減って何が悪いか!』(ASIN:4480062114)読了。前回、従属変数が相関するメカニズム自体を壊すという手もあるのではと言いましたが、本書6章では少子化は止められないという事を少子化が発生するメカニズムから論証しています。

ここでは少子化の原因として「相対所得仮説」を挙げています。これは、女性には今までよりも良い暮らしをさせてくれる相手と結婚したがるという傾向があり、右肩下がりの経済状況では彼氏の経済力が実家のそれを上回れないので必然的に未婚化が進み、結婚しても生活水準を維持するために子供を産まなくなるというもの(未婚化の傾向がより強い)。

「相対所得仮説」を明確に裏付けるための調査はまだないそうですが、既存の調査を流用してこの仮説を支持するようなデータが提示されています。15歳の時の実家の世帯収入と現在の世帯収入を比較すると「実際の世帯収入に差はないにもかかわらず、世帯収入の相対的なレベルが上昇したと認知している女性は、結婚し、子どもをたくさん産んでいる」とのこと(p155)。

この仮説が正しいとすれば日本の経済状況では打つ手なしだというのです。子どもを産んだら生活水準がアップするくらいの児童手当というのは不可能*1GDPを増やすか結婚後の生活に対する期待水準を下げるかの二択なのですが、どちらも政策的にどうにかするのは困難、戦争でも起こして期待水準の低下→戦後復興で相対所得増大、というサイクルに持ち込めば別だが。。。という結論に。

少子化は原理的に止められない、それなら少子化を前提にした制度設計、つまり少子化によって発生する社会の負担をいかに公平に分担するかに力を注ぐべき、ということで本書では年金改革などについて考察しています。

少子化自体は「変えられるもの/変えられないもの」*2で言うと「変えられないもの」であり、必要なのは少子化への抵抗ではなく少子化時代を生きる知恵だということですか。このあたり宮台真司『終わりなき日常を生きろ』(ASIN:4480033769)のモチーフに通じるものがあります。ガツンと一発食らったような読後感も似ていて、なかなか刺激的なな読書体験となりました。文句なしにお勧めの一冊です。

ちなみに「子どもが減って何が悪いか!」の元ネタはガンダムのブライト中尉のセリフ(参照: 第9話「翔べ!ガンダム」)だそうです(p102)。

*1:出産・育児の機会費用(子どもを作らず働いていたら得られる収入)だけでも一人数千万円から数億と言われています(本書では4400万円という数字を挙げています)から、これを税金で補償するのは無理(数十兆円かかるはず)です。

*2:参照:平安の祈り