内部被曝の「生涯で最高2ミリシーベルト」ってどういうこと? って話

朝日がこんな記事を出していて、

福島県は12日、東京電力福島第一原発事故による放射線量が高い地域で6月から続けていた住民の内部被曝(ひばく)検査の結果を発表した。8月末までに検査した3373人のうち、生涯に浴びる内部被曝量が1ミリシーベルトを超えると推計されたのは7人。最高は2ミリシーベルトだった。県が進める内部被曝検査の全容が明らかになるのは初めて。
asahi.com(朝日新聞社):内部被曝、生涯で最高2ミリシーベルト 福島県住民検査 - 社会

これに対してこんなコメントがあったので、「生涯で」の意味を簡単に説明します。*1

id:himagine_no9 [放射線][原発] 9月12日22時02分配信。「生涯」で計算している意味がイマイチわからない。不確定要素が多すぎやしないか?
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内部被曝について「生涯」で計算するのは普通のことです。何ベクレル食べたら何ミリシーベルトに相当、みたいな話は、まず「生涯」の被曝量だと思って間違いないです。

例えば、謎の食品QB*2セシウム137が1000ベクレル含まれていて、今日の晩ご飯にQBを一度にきゅっぷいと食べてしまったとします。

この日食べたQBに含まれるセシウムは明日の朝トイレに全部でていく、というわけではなく、体が栄養素と勘違いして、もったいないじゃないか! とばかりに体内に取り込んでしまうため、結構長い間体内に残ります。

どのくらい残るかというと、セシウムの場合だいたい90日で半分は体外に出ていくと言われています。*3 そうやって体内に残る量がだんだん減っていくのですが、それをグラフにするとだいたい指数関数のグラフになります。

つまり、この日の晩ご飯にQBに由来するセシウムは90日で500ベクレル、180日で250ベクレル、270日で125ベクレル、、、という風に90日毎に半分になっていきます。そのため「セシウムの生物学的半減期は90日」と言ったりします。

最終的にいつまで残るのか? というと、指数関数は決してゼロにはならないので、理論上は永久に残ります。つまり理論上は死ぬまで被曝し続けます。だから「生涯」で計算するわけです。まあ、実際には最後のセシウム原子1個が出て行けばそこで終わりですが、計算結果はほとんど変わらないので単純に指数関数だと思って計算してるはず。

注意したいのは「生涯で」と言っても、この例なら今晩食べたQB一食分から生涯に受ける被曝量だということです。明日食べるQBとかは全く考慮していません。

さて、体内のセシウムから受ける被曝、つまり内部被曝の量は、体内に残ったセシウム放射能の量(つまりベクレルの数)と、セシウムが体内に留まる時間に比例しますが、*4そのベクレルの数自体が毎日減っていくので、毎日の残りベクレルを死ぬまでの期間累積していった総和(つまり指数関数の積分)を生涯の被曝量(預託線量と言います)の計算に使います。

ていうか、これ見たら一目瞭然じゃん。すみません、QB言いたかっただけです…

ここで朝日の記事の話に戻りますが、住民の検査ではホールボディーカウンターで検査した結果を使って被曝量を計算しているので、今日の晩ご飯(QB)からの被曝量、というわけではなく、これまで食べたり吸ったりして検査当日に残ってる分からの被曝量ですが、理屈は同じです。

くどいようですが、これも「生涯で」と言っても、検査時点で体内に残っていたセシウム等から生涯に受ける被曝量のことで、今後食べる食品などから受ける被曝の事は考慮していないと思います。

なお、記事からはわからないですが、2ミリシーベルトには、検査の日より前の分の被曝量も計算上遡って被曝量に計上しているかもしれません。もっとも、検査は6月から始まっていて、(物理学的な)半減期の短いヨウ素131はもう検査では検出できていないかもしれません。

もしそうなら、ヨウ素の分の被曝は2ミリシーベルトには含まれていないかもしれず、気がかりです。検査でヨウ素を検出できていなくても原発から放出されたセシウムヨウ素の比から推定して計算することくらいはできるので、そういう推定値を含めている可能性もありますが、記事からはわかりませんでした。


*1:ブコメでもっとざっくり説明したのだけどわかりにくかったようなので。

*2:特定の食品に悪いイメージを与えることのないように架空の食物で説明します。

*3:参照:「放射性物質に関する緊急とりまとめ」 (平成23年3月29日 食品安全委員会)

*4:正確に言うとセシウムの出す放射線自体も(物理学的な半減期に従って)時間と共に減っていくので、厳密に比例するわけではない。