NHKよお前もか

今日のNHKクローズアップ現代」は「性犯罪 再犯を防げ」と題して再犯を繰り返した性犯罪者の実例と、日本でのカウンセリングの取り組み(ある刑務所が自主的にやっている例外的なケース)、イギリスでの監視の実態などを取り上げていました。

再犯率については「性犯罪の再犯率は際立って高いということはないが、同じ犯罪を繰り返す傾向が強い」という話になっていました。で、出てきたのがこれ。

性犯罪の「再犯率?」

だからそれ再犯率じゃないっつーの。警察庁は「再犯率」のデータは出してません。出してるのは「再犯者率」。強制わいせつの 11.5% というのは同一罪種に限った再犯者率。婦女暴行という罪種の区分はなかったと思いますが、8.9% というのは強姦の同一罪種に限った再犯者率と一致するのでこれでしょうか?

ちなみに、再犯率/再犯者率の話を書くと再犯率は誇張されているという主張だと思われるようですが、僕が言いたいのは再犯者率のデータからは「再犯率はわからない」「過大なのか過小なのかもわからない」「犯罪毎の再犯性の比較にも使えない」ということです。「際立って高いということはない」ということだって言えないのです。要するにまともなデータなしに先走って話を進めるなっていうこと。

「同じ犯罪を繰り返す傾向」について出てきたのがこれ。

強制わいせつの再犯者

これまた何の割合だかよくわからない図です。ナレーションでは「強制わいせつを繰り返した性犯罪者の再犯の回数をまとめたものです」とのこと。

再犯者率では同一罪種の再犯を扱っていたのでこれも同様と思われますが、警察庁の発表資料では、2003年に強制わいせつで検挙された成人のうち同一罪種の再犯5回以上は 10 人。一度でも同一罪種の再犯があったあった再犯者は合計 224 人です。一目見ても上のグラフとは一致しないのがわかります。一体どういうことでしょう?

しかしある(間違った)方法で計算するとこれと全く同じグラフが作れる事に気付きました。

再現したグラフ

どう見ても同じです。どうやったかというと、例えば同一罪種前科5犯以上の人数(10人)に、トータルでは前科5犯以上だけど同一罪種の前科は1〜4回という者の人数(37人)を「5犯以上」足し合わせてしまったのです。他の「N犯」についても同様に前科N犯の者から同一罪種の前科1〜N-1回の者を足していくと上のグラフになります。

警察庁の発表資料では「前科5犯以上だけど同一罪種の前科は1〜4回」のさらなる内訳は書かれていないので、全部4回かもしれないし全部1回かもしれません。この資料からはNHKが本来提示したかったデータは作れないのです。この資料から言えることは、件の母数に対して、

  • 前科5犯以上が 4.5%
  • 前科4犯は 1.8%〜18% の間
  • 前科3犯は 5.4%〜29% の間
  • 前科2犯は 9.3%〜43% の間
  • 前科1犯は 45%〜79% の間

ということまでです。グラフにしにくいんですが前科1犯が最低どのくらいか、前科5犯以上がどのくらいかがわかるようにしたグラフがこれ。

修正したグラフ

随分印象が違うと思うのですがどうでしょう。念のため繰り返しますが母数は「一度でも強制わいせつの前科がある者」です。再犯者率が 11.5% なので初犯者はこの 8.7 倍です。そういう意味では再犯防止策と一般的な防犯対策のコスト配分というのも考慮すべきではないかと思います。

他の犯罪との比較については後ほど。

くどいようですが以上は「性犯罪の再犯性や累犯性(っていうの?)が少ない」ということを主張するものではありません。まともなデータで議論しろということです。私見を述べればある種の性犯罪者の再犯性や累犯性が相当に高いという可能性は十分あると思います。しかしその割合は少なく「性犯罪」という大雑把なくくりで平均化してしまうとはっきりした特徴が出ないと推測しています。そうだとすれば何らかの方法で「ある種の」の部分を絞り込む(プロファイリングや医学的な診断など)ということをしないと効率的・効果的な再犯防止策はとれません。仮にミーガン法(一般告知)を実施するにしても警戒するためのコストが無駄に分散されて被害回避の可能性が減ってしまうおそれがあると考えます。