インターネットで実名でレスバしてたらISPの社長から脅迫された話。そして17年後…

インターネット老人会 Advent Calendar 2023」3日目の記事です。

インターネット老人会」ということで、今日は日本の商用インターネット接続サービスが始まった前後の頃の話をしたいと思います。

今日は fj の話をしようと思うがその前に…

インターネットと言えば今は Web *1 のことですが、Web が普及する以前、1990年代初頭から世界規模のネットコミュニティが既にあったことをご存知でしょうか。その名を NetNews といいます。

NetNews は一言で言うなら公開メーリングリストのようなものです。あるいは分散型掲示板とも言えるでしょうか。メッセージの形式は当時既に普及していた E-Mail とほとんど同じでしたし、メッセージの配送の仕組みも E-Mail とよく似ていました。参加者はISPや所属組織にあるサーバーにメッセージを送信すると、世界中のサーバーにそれが配送されるという仕組みです。

NetNews は世界規模の巨大なコミュニティですが、ジャンルごとに階層化されたグループ分けがされており(これをニュースグループと言います)、日本語でやりとりするニュースグループは fj (From Japan の略)という階層の下にまとめられていました。また、これらの階層とは別に、組織内で閉じた(組織の外部に配送されない)ニュースグループを運用している組織もありました。

Web が普及し始めた当時は NetNews を投稿したり閲覧したりするための機能が Netscape Messenger や Outlook Express のようなメジャーなメールソフトに備わっていたため、NetNews は E-Mail や Web よりは一段マイナーなものの、代表的なネットの機能の一つという認識は一般的なものでした。

インターネットで必要なことはすべて NetNews で学んだ

僕が本格的に NetNews を始めたのは大阪大学で大学院生をやっていた1995年頃でしたが、それ以前に学内で閉じたニュースグループを利用していました。1993年頃からだと思います。当時は学内の情報処理教育センター(情教)というところで利用者のサポートやマシンのメンテナンスを手伝うボランティアをやっていたのですが、学内ニュースグループの常連はそのボランティアの仲間たちでした。

学内ニュースグループといえども荒らしみたいな人や非常識な発言をする人はどこにでもいるもので、自治的な活動をしているボランティアの人たちは当然それに批判的なレス*2 を返すのですが、皆が思い思いにレスを返したら袋叩きみたいになってしまった、ということがありました。それはちょっとどうか、ということになって問題的な投稿に対するレスは事前にボランティアの間で話し合って誰かが代表してレスを付ける、みたいな話に落ち着きました。

最近、というかかなり前から言われていることですが、ネットでの誹謗中傷は、一つ一つの発言自体はそれほどではなくても、それが大勢から一斉に発せられると、それを浴びせられる側には致命傷になりかねない、その構造が問題だ、という話がありましたが、同様のことをこの頃から身をもって知ることになったのです。

ただ、それに対策できたのは組織化された人たちが場を仕切っていたからこそで、今のネットのように自由に発言できるバラバラの個人がマジョリティになっているとこうはいきません。というか、学内ニュースグループから一歩外に出て fj のニュースグループに参加するようになってからそのことを思い知りました。

fj というバトルフィールド

fj ではコンピュータ系の話題を扱う fj.sys.*, f.os.* や社会や時事問題に関する話題を扱う fj.soc.* (特にジェンダー系の話題を扱う fj.soc.men-women)、宗教関係の fj.life.religion に出入りしていました。

fj.soc.men-women に出入りしていたのは、当時宮台真司の著書を読んでいた関係で売買春に関する話題に首を突っ込んだのがきっかけだったと思います。fj.life.religion については、僕自身は信仰する宗教等はなかったのですが、当時は地下鉄サリン事件から間もない頃で連日テレビにオウム真理教の話題が出てくる状況で、宗教全般についても興味がわいてきたからです。

今思うとよりによって地雷原みたいなところに… とは思うのですが、当時は今以上に「議論」が大好きだったのです。

fj は原則実名制です。到達性のあるメールアドレスを投稿に設定するルールもありました。特に商用インターネットが普及し始める1996年より前はネットワークは企業や大学がボランティア的に運用しているものだったので、匿名でタダ乗りするのは許されないという雰囲気がありました。投稿で実名と所属を名乗る習慣も根付いており、僕も「なんば@大阪大学」のような名乗りをしていました。*3

よくインターネット老人会メンバーが「古のインターネットではいい歳した大人たちが実名で殴り合ってたのじゃ…」みたいな思い出話をしますが、あれは紛れもない事実です。実名なら礼儀正しくやりとりするだろうと思ったら大間違いです。

もちろん大半は穏やかなやりとりなのですが、一度荒れると歯止めがありません。言葉の荒い人も少なからずいて、それが原因でヒートアップすることもありました。言葉遣いそのものについても喧々諤々の議論がありましたが、常連は荒い言葉に比較的寛容というか、もうそれが fj の文化みたいになっていたところはあります。特に有名な void 氏(日下部陽一氏)、lala 氏(松岡宏氏)についてはこんな投稿も…


> あなたは void さんの「罵倒」記事を見たことはないのですか?

くさかべさんの発言で「罵倒」に相当するようなものを
見た記憶がないのですが、具体的な例を示していただけ
ませんか?

私が見たことがあるのは

ばかじゃないの?
ばかですね
ばか...
あたまわるそうですね
ATOKユーザーだから?
だまってればいいのに
さっさとひっこんだら?

のようなものがほとんどです。いずれも声としてはおと
なしいほうで、どちらかといえば独り言とかつぶやきに
近く、感情的でもないし激昂してもいません。というわ
けで、私から見ればくさかべさんの発言は「罵倒」の要
件を満たしていないのですが...。

Re: void 型罵倒と lala 型罵倒 - fj.usage


あと、松岡さんの発言でも「罵倒」に相当するようなもの
を見た記憶がないのですが、具体的な例を示していただけ
ませんか?

私が見たことがあるのは

あほう!!!
馬鹿,黙ってろ。
自分で勉強しろよ。
大馬鹿野郎現わる!
いらん口を挟むな!!
ガキの遊びのつもりか。
ちゃんと趣旨を理解しろ。
少しは脳みそを使えよな。
DATEを直せよ,馬鹿。
脊髄反射でfollowするなよ。
fj.news.policy を読め!!!
くず記事投稿するんじゃない。
どうせ説明もできないんだろ。
無知がでしゃばって馬鹿を晒す。
こんなやつを野放しにするなよ。
確信犯の大馬鹿野郎がまた現れた。
出鱈目を書いているんじゃねぇよ。
辞書で「部隊」くらい調べろよな。
「考える」ことに資格がいるのかよ。
こんな馬鹿の相手をやってられるか。
何を考えているんだか。この馬鹿は。
放送業務やるなら、法律くらい守れ!
さっさと具体的なurlを提示しろよな。
また訳の分からん馬鹿が絡まってきた。
どうしてこういう馬鹿を接続するんだ。
馬鹿じゃないの。ああ、馬鹿だったっけ。
本当にこいつは条文さえ読んでいないな。
まったく脳みその使い方も知らないのか。
くず記事はどこまでいっもくず記事だな。
声の届かぬところで叫ぶ、馬鹿の遠吠えか。
まったく,こんな馬鹿を野放しにするなよ。
何を馬鹿な文句を吐いているんだろうねぇ。
やれやれ。もう少し論理展開を勉強したら。
第30条の条文をちゃんと読め!!!!!!
はぁ???何を読んでいたんだ。こいつらは。
自粛の意味分かって文章書いているのかねぇ。
という誹謀はしない程度の礼儀はわきまえろ。
やれやれ、何が言いたいんだろ、この馬鹿は。
そんなことも理解できない頭で、投稿するな。
情報を伝えたいのであれば,そのように書け。
根拠もなく名前を挙げるのはいい加減にしろ。
どうしてこういう馬鹿が繰り返し現れるんだ。
まったく、誰が説明しても無意味じゃないのか。
何が「構いません」なんだか。本当に社会人か?
自分のスタイルも持てないのかねぇ。この馬鹿は。
どうしてこうも同じ事を繰り返す馬鹿が多いのだ。
揚げ足をとるつもりなら、もっと記事を読めよな。
ここは、fj.jokesではない。失せろ!!!
あまりに初歩的な事さえしない人間は無視するぞ!
いまだにこんな馬鹿なこと言っているのがいるわけ。
理解したくもないのなら、もうfollowしないでくれ。
同一account を複数の人が利用して投稿するな!!!
どうしてそこまで馬鹿をさらけ出したいの?????
まともな文章も書けないなら、出てくるなよ。馬鹿が。
さすが。よくもこんな文章投稿する気になれるもんだ。
お願いですから、大脳皮質で考えて議論してください。
やれやれ。netnews と私生活がなんで関係するんだか。
本当に馬鹿だってこと世界中にさらけ出すんだものなぁ。
いまだにnetnews を子供相談室と思って使っているのか。
netnews fj の利用の仕方について勉強してから、出直せ。
やれやれ。人の記事を引用するなら、出所を明示しろよな。
やれやれ,また馬鹿どもが同じネタを繰り返していやがる。
条文があっても読まない馬鹿には何を提示しても無意味だ。
疑問符で終る文章を提示する前に、その根拠を示してみろ!
解説書の一冊でも読んで理解できるまで、出てくるな!!!
もうすこしnetnews の利用方法を勉強してから利用を始めろ。
なんで、こんな人間の研究費が税金で賄わればならないんだ!
著作権法第1条さえも、まともに読まない人は失せろ!!!!
やれやれ、「区別」と「差別」の違いも理解できないのかねぇ。
駄文投稿している暇があったら、さっさと謝罪記事を投稿しろ!
やれやれ。人の記事も読まないで、記事を投稿するなよな (-_-#)
こいつも、まともなnewsgroup を設定するだけの頭がないらしい。
やり方を非難するなら、自分が適切であると思う方法を提示しろ。
ほんとにこの馬鹿はnewsgroup の選び方も理解できないようだな。
無意味にsigantureは2回も付けるし,馬鹿を放し飼いにするなよ。
何をか書いているかと思えば、寝言だけなんだから。馬鹿馬鹿しい。
おいおい、最近はこの程度のことさえ理解しないで投稿するのかぁ。
こういう馬鹿は相手にすればするほど、つけ上がってくるだけだぞ。
やれやれ、同レベルの人間が互いにfollow して何が生まれるんだろ。
お前等なぁ,少しは頭を使えよ。だんだん馬鹿馬鹿しくなってきたぞ。
fj の利用に関して、幾つかの文献をまずは読んで勉強してから出直せ!
やれやれ。分かりもしないで、文句だけ投稿していたのか。この馬鹿は。
パソコン通信とInterNet の違いも理解しないで利用しているのだろうか。
どうせ、また「違法かどうかの判断」と同様、思い付きで書いた文章だろ。
そんなあたり前のことを確認するたけだけのために、followしているのか。
やれやれ,またこの馬鹿か。人のケツばかり追っかけて何が楽しいのやら。

のようなものがほとんどです。いずれも声としてはおと
なしいほうで、どちらかといえば独り言とかつぶやきに
近く、感情的でもないし激昂してもいません。というわ
けで、私から見ればまつおかさんの発言も「罵倒」の要
件を満たしていないのですが...。

Re: void 型罵倒と lala 型罵倒 - fj.jokes

後者は fj.jokes への投稿ですから「罵倒」の容認ではなく皮肉なのでしょうが*4 前者は容認的な文脈での発言でした。

僕自身は lala 氏の投稿を読む機会はあまりなかったのですが、void 氏の投稿は度々目にしていたので、はっきり言って void 氏のことは嫌いでした。fj ではあんなだけど会うといい人だよ、なんて話を聞いてなおさら嫌いになりました。こんな投稿をしたこともあります。

だいぶ前の話ですが fj.soc.men-women で、

<571sog$hui@orchid.mirai.or.jp> にて okumura さん:
> 一刀両断!!
> 
>   ヘ | _ヘ   
> ミ・ | ・ ミ 
>  (   | ° )~

これにはいたく感動いたしまして、私もいろいろ考えてみました。


 ヘ ヘ  
  ____   
ミ・・ ミ
 (  ° )~  みみそぎ



    ヘ_ヘ       ~ミ
   (・・ )   ~ミ 
   (  ° )~         ひげ切り



★        ヘ ★
 ★ヘ _    ★
ミ・★★ ★    ミ 
 ★★★★  ・  
  ★★★★      )~
( ★  °  ★
 ★         ★          爆破!
★


            
      ☆  ◆
  ヘ_ヘ ◆\
ミ゜゜ミ    \
 (( ° ))~        背後からハンマーで!

void 氏を 一刀両断 ! - fj.jokes

まあ、今思えば僕もたいがいアレでしたね…

fj で議論した相手から脅迫される

そんな殺伐とした fj で、僕自身も事件に巻き込まれます。相手を仮にB氏とします(敢えて名を伏せる理由は後述します)。B氏とは確か fj.life.religion でやり取りしたのが最初だと思います。

B氏は今風に言うとマウンティングしたがりというか、普段は下手に出るような態度をとるのですが、fj でありがちな荒っぽい歯に衣着せぬ物言いに対しては世間の常識を振りかざして個人攻撃するようなタイプで、それでいて大量の投稿をするものですから fj のあちこちで先住ユーザーと軋轢を生み出し、少なからぬ人たちから「荒らし」として認識されるようになりました。

fj というか、当時のネットの空気そのものがそうだったのですが、ネットは一般社会のしがらみから開放された機会平等で実力主義の空間という考え方が強く、社会的地位による上下関係を押し付けようとしたり、目上の人を敬えとか礼儀正しい言葉を使えとか、そういう態度が毛嫌いされる風潮がありました。

B氏の大量の投稿の多くは今で言えばクソリプなんですが、現代のSNSとは違って fj はリプライし合うのが当たり前の場ですから、不躾なリプライ自体は問題になりませんでした。問題は礼儀ではなく発言の内容で、その議論の場を荒らすような性質です。

僕はそんなB氏と最初は普通に(?)議論していたのですが、言葉の端々に感じる上から感とか、それでいて妙に持ち上げたり、なれなれしい態度を取ってくる上、言葉遣いが独特で議論していても何言ってるのかよくわからず、やりとりしても埒が明かないことが多々あり、だんだんB氏にキツく当たるようになりました。

僕だけでなく多くの人はそんな感じでした。今見ると、僕も含め、もう少しこう何というか手心というか… という感じなのですが、もっとキツい人がそこらじゅうにいたので…

そんな状況で、いつからか、B氏は自分にキツく当たるユーザーにメールで抗議するようになりました。脅迫とも言えるような内容もありました。到達性のあるメールアドレスを From に書くのが fj のルールなのでそういうことができてしまいます。抗議メールが届いたユーザーは当然 fj でそのこと批判するので、それがまた fj の人たちのB氏に対する反感を呼び、という悪循環に陥りました。

B氏から抗議(あるいは脅迫)メールを送りつけられた一部の人たちは、同報メールで「被害者の会」的な情報交換を行い対策を検討することになりました。その過程でB氏がとあるインターネットプロバイダ(ISP)の社長であることが判明しました。当時日本の各地にISPが雨後の筍のように乱立していて、B氏の会社はそんな ISP の一つのでした。

これには頭を抱えました。普通なら目に余る荒らしが出たらその人の接続先プロバイダに苦情を入れて止めてもらうのですが(大抵はプロバイダの規約違反になるはずなので)、相手がプロバイダの社長ではそうはいきません。

そこでB氏の会社の上位プロバイダに苦情を入れてみてはどうかという案が「被害者の会」で出ました。B氏の会社のようなエンドユーザーと契約してインターネット接続サービスを提供する会社は、ユーザーの回線を上流の回線に繋げるために一階層上のプロバイダと契約します。上位プロバイダにも荒らし(net abuse)禁止の規約はあるので最悪契約解除になるのでは、という読みです。

もっとも上位プロバイダからすれば下位プロバイダは月何十万円も払うお客さんですから、その利益を失ってまで厳しい対応をとるだろうか?という懐疑の声もありました。そこで僕はB氏に以下のようなメールを送りました。

  • あなたがXXX社の社長であることを確認した
  • XXX社の上位プロバイダのYYY社に苦情を入れようと思う
  • あなたの行為はYYY社の規約に違反している可能性がある
  • あなたが態度を改めるなら苦情は入れないかもしれない
  • これが最終通告である

これにはB氏もビビッたようで、反省し態度を改める旨の返信が届きました。もっとも、本当に反省してるのか?というのが極めて疑問な内容でもあり… とはいえ、その日からB氏の fj への投稿は止まりました。

これで一見落着、と思いきや、2週間ほどで投稿を再開。どうやら上位プロバイダに苦情を入れられても大丈夫と踏んだようです。あるいは自分は悪くないという申し開きを事実関係を捻じ曲げつつ投稿しておけば誤魔化せると思ったのかもしれません。

ここで上位プロバイダへの苦情申立というカードを切るべきか否かが悩みどころでしたが、そうこうしているうちに僕のところにも脅迫メールが届きました。内容は、刑事告発民事訴訟を弁護士と検討している、というもの。僕の他にも被害者の会で同様のメールが届いた人がいました。

刑事はもちろん民事でも問題になるようなことはしておらず、事実を把握すれば弁護士も相手にしないであろうとは思いましたが、ネットが普及してからまもない当時でしたので、果たしてネット上の事実関係を的確に把握できる弁護士がいるだろうか?という疑問もあり…

事実を捻じ曲げて自分が被害者で被害者の会の人たちが加害者だと主張するB氏の投稿は放置できなかったので、僕も fj に経緯をまとめた長文を投稿するという対応をしましたが、上位プロバイダへの苦情申立は保留にしていました。こちらとしても申立が功を奏する可能性は五分五分以下だと思っていて、これが失敗するともう打つ手がなかったからです。

なのですが、特に激しく個人攻撃を受けていた被害者の一人が意を決して上位プロバイダへの苦情申立を実行し、その内容を fj に公開してしまいました。公開された苦情申立文には WHOIS で取得したB氏の会社の情報がそのまま掲載されていました。

前後して WHOIS の情報の一部は既に fj に流れていて、B氏はそれに抗議していたのですが、その時はまだ会社名とB氏の役職(社長)までしか開示されていませんでした。しかし上の苦情申立文には会社の住所までがフルで掲載されていたのです。

さすがにこれでB氏はおとなしくなった、、、というのが僕の記憶だったのですが、今確認してみると、全然そんなことなかったんですね…

どうやら上位プロバイダからは決定的な対応はなく、その後もB氏は fj で暴れ続けていたのでした。この頃僕は就職して仕事もプライベートも目まぐるしく変化していた時期だったので NetNews は全然見ていなくて気付いていませんでした。

B氏の投稿はその後1999年頃まで続いていましたが、何があったのか2000年を境に投稿はパッタリと途絶え、fj では時折「伝説の荒らし」的な位置付けでその名が言及される以外には彼の名は見られなくなりました。

そして17年後…

fj での騒動から17年後、思わぬところでB氏の名を見ることになります。ソフトウェアの違法販売の容疑で逮捕された容疑者の名前がB氏と完全一致したのです。まさか?同姓同名?と思ったのですが、報道された容疑者の住所は市町村までB氏の会社の住所と一致しますし、年齢もB氏のプロフィールと矛盾しません。

そもそも何故そんなちっぽけな事件の報道を目にしたかというと、このB氏が著名なネトウヨC氏と同一人物であるとの情報がSNSに流れていたからです。C氏は Twitter やブログで在日コリアンに対する過激なヘイトスピーチを繰り返す一方で、歴史修正主義的な情報発信も行い、右派の著名人や産経新聞記者、はては自民党の現役国会議員にRTされたりリプをもらったりしていました。

批判する在日コリアンや反差別団体、左派の著名人に対する攻撃も激しく「殺す」「虐殺する」等の暴言も飛び出し、それだけでも脅迫罪に問われるレベルではないかと思うのですが、匿名の影に隠れてやりたい放題でした。

そんな状況にたまりかねたジャーナリストのD氏がC氏の実名と住所を突き止めて突撃取材を敢行したのが上の逮捕報道の半年ほど前。散々D氏を煽っていたC氏でしたが、結局自宅に閉じこもり取材に応じませんでした。

しかしD氏の周辺住民への取材で氏の暮らしぶりが判明します。どうも地元の飲食店で韓国人女性客に絡んで出入り禁止になったりと、リアルでも問題行動があったようです。

そのジャーナリストのD氏が上の逮捕報道後 Twitter やメディアの取材で容疑者がC氏で間違いないことを認めました。逮捕容疑の犯罪行為についても取材過程で掴んでいたようです。

ただ、この時点ではまだC氏がB氏と同一人物かどうかは不明でした。ネットでは「こいつひょっとしてあのB氏?」というのはインターネット老人、じゃなくて古参ネットユーザーの間では噂され、半ば確定事項となっていましたが、決定的な情報はまだありませんでした。

しかし思わぬところからC氏=B氏が確定します。僕には fj でやりとりしたのがきっかけで、今でもやりとりのあるネットユーザーが何人かいますが、その一人のE氏が事件とは無関係の文脈でB氏の名を挙げてツイートしたところ、なんとC氏が返信してきたのです。

E氏のツイートの文脈は「昔のネットユーザーにはモラルと常識があった」「いやそんなことないだろ、fj のログ見ても同じこと言えるのか?」というやりとりへの反応で、「そういえばB氏も fj にいたよな」とつぶやいていたのでした。そのツイートにC氏が「なつかしいな、実はE氏のことは尊敬していたんだよ」などと返信したのです。

マジか…

因縁の再戦

ここで実はC氏とは自分もレスバしていたのを思い出しました。逮捕の1年前の話で、Twitter まとめサイトのコメント欄でのことです。議論していた話題は外国人に対する生活保護の是非についてでした。

この話題については僕が事ある毎に言っていますが本来なら「国際条約(国際人権規約社会権規約)で外国人を社会保障の対象から除外することは許されていない」で終了です。

条約の相互主義だなんだと反論する人もいますが、というかこの時C氏も同様の趣旨の反論をしてきたのですが、国際人権規約は普遍的な人権を保証するものですから相互主義は取りません。すなわち、ある国が人権を保証しないからといって条約加盟国がその国の国籍を持つ人の人権を保証しないということは認められません。

この「外国人に対する生活保護の是非」の話題というのは、ネットでは単に外国人一般の話ではなく、元々は在日コリアン差別のネタの一つでした。特に2ちゃんねる発の「在日の5人に1人は生活保護受給者である」というデマがきっかけで広く話題にされるようになったものです。

実はこのデマについては発生源まで辿ってデマであることを確認したことがあります。くわしい経緯はこのブログの以下の記事に書きました。

要は元々は計算ミスから始まった話で、最初に2ちゃんねるにデマを投稿した人も計算ミスを認めて撤回していたのですが、コピペの形で本人の手を離れて拡散してしまった、という話なのです。

ちなみに同様の計算ミスはひろゆき(西村博之)もやらかしています(「元祖しゃちょう日記」というのが当時のひろゆきのブログです)。

以来長らくこのデマへの反論は僕の持ちネタのようになっていたのですが、ここ10年ほどはデマの方も明らかな計算ミスを修正したバージョンになり、その一方でそれでも残る問題点を指摘する人も多くなりメディアのファクトチェックの対象にもなるようになったので、最近はあまり触れる機会もなくなりました。

しかし、未だに右派知識人や保守系政治家などから外国人に対する生活保護を廃止しろという吹き上がりが出てくるので、それは国際条約脱退しないと無理だよ、という話は繰り返しています。

さて、この記事を書くに当たって上記のジャーナリストD氏の著書にあるC氏=B氏への突撃取材の経緯を確認していたのですが、そこにB氏がネトウヨになったきっかけについての記述がありました。そのきっかけというのがどうも「在日の生活保護」デマのようなのです。

かねてから在特会などのヘイト団体は生活保護の打ち切り問題を引き合いに出して「在日コリアンへの生活保護給付のせいで日本人が割を食って餓死している!」などといったデタラメを主張しており、B氏もこの手の主張の影響を受けていたのでした。

生活保護受給者のほとんど(D氏の著書では97%としています)が日本人ですから在日コリアン生活保護をやめたところで財政への影響はほとんどありません。元々のデマで在日コリアン生活保護受給率が計算ミスで12倍に見積もられていたのがこの手の誇張された主張の原点ではないかと思われますが、僕がそのデマの誤りを指摘する一方で、B氏はそのデマに感化されネトウヨとして名を馳せることになったわけです。

なお、C氏=B氏の Twitter アカウントは数年後に凍結され、ツイートは全て非表示になりました。ブログは今でも残っていますが、Twitter 凍結後は数回更新したのみで現在は更新停止しています。

最後に

というわけで、この話はここまでです。

最後にB氏の名前を伏せたことについて。実名制の fj でのB氏の発言を敢えて名前を伏せて紹介したのは、この記事がB氏に対する個人攻撃を目的としてものではないからというのもありますが、17年後の犯罪報道で氏の実名が公表されてしまったからです。

B氏の更生を妨げないように名前を伏せるためには、過去の実名での発言についても名前を伏せる必要がありました。また、上述のジャーナリストD氏の著書ではB氏の実名はもちろんのこと、C氏のハンドル名も伏せられていましたので、僕もそれにならいました。まだネットに一部残っているC名義で公開されたヘイトスピーチが拡散されるきっかけを与えたくないという理由もあります。

そんなわけで、みなさんもB氏のプロフィールについて具体的な言及は避けていただけるとありがたいです。

*1:元々は World Wide Web と呼んでいましたが、みんなもう World Wide とか付けなくなりましたね。

*2:NetNews 用語としては「フォローアップ(フォロー)」が正しいのですが、SNSが普及した現代では混乱する用語なので「レスポンス(レス)」の語を用います。

*3:プロバイダと契約して家から投稿するようになってからは所属は書かなくなりましたが。

*4:この投稿は後に「LaLa総目次」と呼ばれ話題になりました。