MOE 2.0 : A Reformulation of MOE

「萌え」という言葉の意味が「低強度の性的興奮」という意味で限定的に使われることにいかに抵抗するべきかを検討し、「萌え」の意味を拡張することで対抗することを提案する。

何が問題か

昨日の「萌え」のエントリについて shinp さんからトラバがあったのですが、どうも誤解があるようです。僕が危惧しているのは「萌え」の意味が偏った形で限定されることにより、「萌え」という言葉で表現された事物の性質や「萌え」という表現を使った人の人格が誤解されることです。「萌え」という言葉をオタクコミュニティで独占したいということではありません。

拡張と制限

言葉の意味が言葉の普及によって派生的に変化していくのは避けられないことです。しかし派生の方向性が問題です。変化の方向性には大きく分けると二通りあります*1

拡張による派生
言葉の指し示す範囲が広がっていく方向に変化させること。
制限による派生
言葉の指し示す範囲が狭まっていく方向に変化させること。

拡張は元の意味が残ったまま別の意味にも使われるということで、言葉の曖昧さが増えるという点では問題ですが、大抵は文脈から判断がつきます(通常はそれが可能な範囲で拡張される)。誤解が生じても「こういう意味で使ってますよ」と説明すれば「ああ、そっちの意味か」ということで了解してもらえやすいです。誤解する側も複数の解釈の中から選択したという事実があり、誤解かもしれないという予期があらかじめあるので誤解を解きやすいのです。

しかし制限の場合は、言葉が今まで使えた意味に使えなくなるのです。それだけでなく、言葉というのは文字にすれば残るものですから、残された言葉の意味が誤って解釈されます。もちろん「元の意味はこうなんだよ」と説明することは可能ですが、説明された方は元の意味を知りませんから、いきなりそう言われても寝耳に水な話で簡単には納得しないでしょう。このあたりが拡張の場合と違います。

巷の「萌え」は「制限による派生」

夕刊フジの用例に見られるような「萌え」を「低強度の性的興奮」や「性的刺激への期待に伴う興奮」に限定する用法はアダルト産業を中心に広がっているようです。「萌え」という言葉の一般への認知がこの経路で広がっていくと上記の「制限による派生」という形で言葉の意味が変化してしまう可能性があります。

そうなると従来からの「萌え」ユーザにとっては由々しき事態になります。「ハッカー」という言葉を巡ってソフトウェア技術者たちが繰り広げた血を吐きながら続ける悲しいマラソンのような努力を、我々も繰り返さなくてはいけないのでしょうか?

「拡張による(再)派生」で対抗しよう

shinp さんの提案:

ですから、萌えに変わる新たな言語を作れば良いだけの話です。
とりあえず、「萌え」の代替用法として「惚れ」を推奨しておきます。

これには僕は反対です。それが「萌え」の代替であるという事実によって「萌え」と同じ道を辿りかねません。「萌えはもう古い! これからは惚れ! 惚れ系 AV 女優大特集!」とかそんな感じで消費されるのがオチです。

最初に述べたように僕としては「萌え」をオタクコミュニティで独占したいわけではなく、オタクコミュニティだけで通じる宝物みたいな言葉が欲しいわけではありません。むしろ「萌え」という言葉が持っていた(持たせていた)ニュアンスがなるべく伝わる形で世の中に広がり、それによってキャラなり人物なりに対する熱い感情についてのコミュニケーションに深みや豊かさを与えて欲しいと思うのです。ですから終わりなき言い換えによる逃走という処方箋は僕にとっては無意味です。

そこで僕は提案します。「低強度の性的興奮」や「性的刺激への期待に伴う興奮」以外の意味で「萌え」という言葉を積極的に使いましょう! 猫萌えクラゲ萌えREST萌え、等々、動物や無機物、抽象概念など対象はなんでもいいです。

それらに対する熱い感情、想像するだけで多幸感で満たされるような、わけもなくドキドキするような、そしてそんな自分の激しさ我ながら戸惑いを感じ恥じらいさえもするような、そんな気持ちを「萌え」という言葉で表現しよう!

これは一種の「拡張による派生」です。元々「萌え」という言葉はそのような派生を経て使われてきたもので、我々にとっては原点回帰的な運動ですが、それを(本当はやりなおしの)派生という形で進めることで、後ろ向きではなく前向きな運動として印象づけられたらなと思います。


*1:用語はオレオレ定義。元ネタは W3C XML Schema ですが。