Mrs. GREEN APPLE「コロンブス」MV 問題、マジわけわかんねぇ (追記あり)

6月13日に大炎上の後、削除、謝罪に追い込まれた Mrs. GREEN APPLE (以下 Mrs. と略す)の曲「コロンブス」の MV の騒動なんだが、マジでわけがわからなかった。

いや、今時コロンブスを無邪気に偉人扱いでテーマにするのはアカンでしょうとか、そういうのはわかる。しかしそこまで?って最初は思ったけど、どうも海外向けに英語字幕まで付けてたって話を後から聞いて、それはさすがに… と。まあ、そのことだけで削除や謝罪に値すると言われれば、それはそうだな、と思う。

しかしこの炎上騒動、その点もさることながら、MV の映像表現を問題視する声が大きかったという印象がある。つまり映像に出てくるコロンブスたち(Mrs. のメンバーが扮する)が「猿」(類人猿らしき登場人物たち)に文明を伝えたり使役したりしているというのだ。

報道でも、「「サル」にふんした人たちに、馬の乗り方を教えたり人力車を引かせたりするシーンが描かれて」いる(ミセスグリーンアップル 新曲「コロンブス」MV 批判受け公開停止 - NHK NEWS WEB より)、「コロンブスやナポレオンなど、歴史上の人物に扮したメンバーが類人猿に文明を伝え、人力車を引かせる内容が含まれていた」(日本コカ・コーラ「いかなる差別も容認していない」、公開停止のミセス新曲めぐりコメント…MV内容事前に把握せず - 弁護士ドットコム より)、「今回の描かれ方になればどうしても文明対野蛮とかそうしたような図式になりがち」(荻上チキ・Session 2024/06/13 放送 - TBSラジオでの荻上チキ氏の発言より) 等で、映像の要点・問題点を伝えている。

著名人のネットでのコメントでも、「アジア人が西洋の植民地主義者に扮して猿を啓蒙するなんていう批評性が高すぎるMV」(河野有理氏の 2024/6/13 14:15 のツイートより)、「ヨーロッパ中世風の衣装来た主人公が島に上陸して類人猿を教化してる内容」(宇佐美典也氏の 2024/6/13 11:31 のツイートより)、「ベートーベンが類人猿に西洋音楽を教え(0:33)、ナポレオンが類人猿に乗馬を教え(1:20)、またコロンブスが類人猿に文字、天文、航海術を教えるシーンが登場します(2:17)」(唐木元氏の 2024/6/13 09:33 のツイートより) 等々。

しかし、本当にそんなこと描かれているの?僕は6月13日の昼頃に断片的に流れてくる悪評に興味を持って問題の MV を YouTube の公式動画(既に削除済み)で見たのだが、びっくりした。え?そんな話じゃなくない?と。

僕は Mrs. のファンではないし(今回初めて知った)、いわゆる「ポリコレ」的な批評は支持するほうだし(ケースバイケースではある)、なんなら自分でもそういう批評をしたりして一部の人たちからはウザがられているくらいだが、この MV が「コロンブスを素朴に偉人扱い」という点でダメなのはわかるが、コロンブスたちが猿に文明を伝えているとか、啓蒙しているとか、使役しているとか、そんな解釈は不可能では?と。

もちろん「そのように誤解されかねないし実際誤解されている」という話ならその通りで、絵面的にかなり不穏当という指摘ならごもっともなのだが、大多数の人はそうではなくベタにそういう表現だと断定的に非難している(上の引用だと唐木氏はもっとフラットな言い方だが)。

昨日僕はネットのあちこちで「その解釈ありえなくないか?」という話をしていたのだが、ほとんど通じなかった。かといって「お前の解釈だとここがおかしい」という具体的な指摘もなく、ネットにはただただ上のような言葉が延々と積み重なっていくばかり。たまにはてな匿名ダイアリー等で逆張り的な主張がなされるがだいたいが話にならない与太でしかなく、多くの人は逆に自分の見解に自信をつけてしまっている。

正直、頭がおかしくなりそうだった。俺だけに存在しないものが見えているのか?俺は気が狂ってしまったのか?しかし、もしそうでないとしたら、俺が正気なのだとしたら、大多数の人間の認知能力や理解力についてもはや何も信頼できなくなるのではないか?*1

そういうわけで、誰も同意しない、なんなら誰も読まないかもしれないが、自分があの MV をどう見たか、ということについて、記録も兼ねて順を追って記していきたいと思う。

前置き

まず、僕が最初にこの MV を見た時は一時停止も逆回しも早回しもせず、等倍速で一気に視聴した。その後、歌詞がかなり意味不明だったので大手歌詞検索サイトで歌詞を確認したが(現在は削除されている模様)、やはりぼんやりとしか伝わらなかった。

歌詞を解説するファンの個人ブログも読んでみたが、正直言ってよくわからなかった。炭酸?なんで炭酸?とか思っていたらコカ・コーラのキャンペーンソングだとか。そういうことか、とは思ったが、歌詞が(僕には)難解という点はあまり変わりはない。

ただ MV の内容は、フィーリングで作っている感はあり、整合性・一貫性という点で疑問のある部分少なからずあったが、全体的にはそこまで難解というわけではなく、基本的なストーリーと表現意図は明確に把握できたという感触があった。この時点で「コロンブス(文明) vs 猿(野蛮)」という読み筋は無理なのでは?と感じた。

2回目以降の視聴では一時停止してスクショを撮ったりして細かい描写を確認している。

全体の流れ

まず、約4分間の MV 全体の流れを、まとめておく。基本、カメラがどこを撮って何が写っているかを記し、解釈はなるべくしない。

  • 00:00 島の俯瞰映像(1)
    • 小さな島。
    • 地形は平坦で山も川もない。
    • 平屋建てのモダンな雰囲気の家が1軒建っており、他に建造物はない。
    • 家の周りは草地で道路等はない。
    • ヤシの木風の木が10本ほど生えている。
    • 草地の外側は砂浜。
  • 00:07 玄関の映像(1)
    • 家の中から玄関を写す映像。
    • 玄関のドアを開けて Mrs. のメンバーが扮した三人の男が勝手に入ってくる。
    • 三人の服装は一見して近世から近代にかけての西洋人のもの。
    • ナポレオンは剣を持っていて鞘から半分抜く。他の二人は丸腰。
    • 家の内装はパステルカラーでモダンな雰囲気。
    • 玄関脇の戸棚にはレトロなラジオ(1930年代のミゼット型ラジオと思われる)や小さな西洋人の胸像等の置物が置いてある。
  • 00:15 リビングの入口の映像
    • 三人がリビングの入口まで来て驚き、何かを叫ぶ。
      • 声は聞こえない。以下 MV 中ではセリフや効果音はなく音声は楽曲のみ。
    • リビングには5人の猿人たちがソファや椅子に座っている。
    • 三人が挨拶をし、猿人たちが振り向く。
      • ナポレオンは挨拶の前に剣を鞘に納める。
    • 猿人たちはバナナ、りんごなどの果物を手にしている。
    • リビングのテーブルにはデコレーションケーキ、ピザ、フルーツの盛り合わせ、マカロン、その他お菓子、コップに入った飲料(コーラ?)等の飲食物が置いてある。
    • リビングの壁には絵画(油彩と思われる風景が)がかかっている。
    • リビングの棚には本、胸像、ラジオ、地球儀、レコードプレーヤー(?)等が置かれている。
      • ラジオはレトロなデザインだが玄関脇のものよりは新しいデザイン。
      • 赤いダイヤルの付いた機械がレコードプレーヤーのように見える。
  • 00:25 道路の映像(1)
    • キックボードに乗ったコロンブスが歌いながら道路を走る。
    • 人力車乗ったベートーベンが指揮棒を振っている。
      • 人力車は猿人が引いている。
    • ナポレオンが乗馬マシンに乗っている。
    • 背景に山。道路の脇は荒れ地。
  • 00:33 リビングの窓際の映像
    • 窓際近くにピアノが置いてある(向きは鍵盤が窓側)。
    • 猿人が二人ピアノに向かって弾いている。
    • 猿人二人は蝶ネクタイを付けている。
    • その横でベートーベンが何かを教えている。
    • その後三人でピアノを弾く。
    • ベートーベンがスキットルで酒(?)を飲みその後ピアノを激しく弾く
    • それを猿人二人が見ている。
  • 00:40 リビングの映像(1)
    • 壁に時計とバッファローの角の置物がかかっている。
    • ナポレオンがエレキギターを弾いている。
    • ベートーベンがキーボードを弾いている。
    • コロンブスが歌っている。
    • ピアノは窓の横に寄せて移動している(向きは鍵盤が室内側)。
    • 猿人たちは踊っている。
  • 00:48 エジプトの映像(1)
    • 背景にピラミッドとスフィンクス
      • ピラミッドの前の道路を人が歩いている。
    • コロンブスが歌っている。
    • 背後で猿人二人が踊っている。
    • 再びキックボードのコロンブス、人力車のベートーベン(引き手は猿人)、乗馬マシンのナポレオン
  • 00:54 リビングの映像(2)
    • コロンブスたち三人と猿人たちが記念写真を撮っている。
      • センターで三人と猿人二人がポーズを決めている。
      • ナポレオンはエレキギターを持っている。
      • 後ろの猿人四人は手を上げたり力こぶを作ったりアクションのあるポーズをしている。
    • 一瞬再び三人の歌と演奏と猿人たちのダンスの映像が挟まる。
    • 再びポーズ違いで記念撮影。
    • 三人の歌と演奏と猿人たちのダンスの映像が続く。
    • 窓の下の戸棚の上にレトロなデザインのブラウン管テレビが置いてある。
      • 「リビングの中からリビングの入口方向を写す映像(2)」の時点からあるらしい。
  • 01:03 エジプトの映像(2)
    • 「エジプトの映像(1)」と同様だが背景のピラミッドが遠くなっている。
    • 人力車のベートーベンがバナナを食べている。
  • 01:06 リビングの映像(3)
    • 三人の歌と演奏と猿人たちのダンスの続き。
  • 01:08 道路の映像(2)
    • 人力車のベートーベンがレトロな望遠鏡を覗く。
    • 背景は風力発電の風車。
    • 道路脇は農地?
  • 01:09 リビングのピアノとリビングの入口の映像
    • 窓際近くにピアノが置いてある(向きは鍵盤が窓側)。
    • ピアノに置いた楽譜は「SYMPHONY No.3」
      • 交響曲第3番『英雄』と思われる。
    • 猿人がピアノを弾き、ベートーベンが教えている。
    • リビングの入口に立ったナポレオンがそれを見てサムズアップする。
      • ナポレオンは帽子と上着を脱いだ姿。
  • 01:15 街路の映像
    • 再びキックボードのコロンブス、人力車のベートーベン(引き手は猿人)、乗馬マシンのナポレオンが街路を行く。
    • 背景はヨーロッパ風の古い建物が立ち並ぶ街。
    • ナポレオンは剣を抜いている。
    • コロンブスとナポレオンがやりとりして、ナポレオンとコロンブスが乗り物を降り互いに相手の乗り物に乗り換える。
  • 01:20 リビングの映像(4)
    • リビングに置いた乗馬マシンに猿人が乗っている。
    • その横でナポレオンが腕を組んで渋い顔で見ている。
    • ナポレオンが猿人に何か指導するが最後にジェスチャーで降りろと促す。
      • ムチの振り方がなってない、とキレた?
    • ナポレオンが乗馬マシンに乗って激しくムチを振るう。
    • その横で猿人たちが感心した様子で頷く。
  • 01:26 リビングの映像(5)
    • 三人の歌と演奏と猿人たちのダンスの続き。
  • 01:29 ダイニングの映像(1)
    • ダイニングのテーブルの奥の席(暖炉の前)にコロンブスが座っている。
    • テーブル上の点灯した電球が切れて消灯する。
    • コロンブスが電球を叩いたりするが電球は点かない。
    • コロンブスが紙に羽ペンで「Hi Edison」「How can I fix the light?」と書く。
  • 01:38 リビングの映像(6)
    • 三人の演奏と猿人たちのダンスの続き。
  • 01:44 リビングの映像(7)
    • 乗馬マシンに乗ったナポレオンが剣を振りかざして叫んでいる。
    • その横で猿人たちが敬礼をしている。
  • 01:38 リビングの映像(8)
    • 三人の歌と演奏と猿人たちのダンスの続き。
  • 01:47 道路の映像(3)
    • 背景は「道路の映像(1)」と同じ(山)。
    • 中央で乗馬マシンに乗ったナポレオンが右手を振り上げて叫んでいる。
    • その両脇で猿人がダンスを踊っている。
  • 01:49 道路の映像(4)
    • 背景は「道路の映像(2)」と同じ(風車)。
    • 中央で人力車(引き手は猿人)に乗ったベートーベンがスキットルで酒(?)を飲みながら指揮棒を振っている。
    • その両脇で猿人がダンスを踊っている。
  • 01:50 リビングの映像(9)
    • 三人の歌と演奏と猿人たちのダンスの続き。
  • 01:53 リビングの映像(10)
    • ナポレオンの持つギターの弦をコロンブスが左手で押さえてナポレオンが弾いている。
    • コロンブスの右手にはコップ(中身はおそらくコーラ)。
  • 01:55 リビングの映像(11)
    • ベートーベンがキーボードを弾いている
    • 右横に立っている猿人が鍵盤を叩きながらベートーベンの方を叩いて何か話しかけている。
    • 左横に立っている猿人が鍵盤の端を人差し指で連打。
    • 背後の窓の下の戸棚の上にブラウン管テレビがある。
    • キーボードの手前に手つかずの(?)デコレーションケーキがある。
  • 01:57 リビングの映像(12)
    • 三人の演奏と猿人たちのダンスの続き。
  • 01:59 島の俯瞰映像(2)
    • 夕暮れ時。
    • 家の外には誰もいない。
    • 暗くなって家の明かりが点く。
  • 02:01 リビングの映像(13)
    • 猿人がビデオデッキにビデオテープを入れる。
      • テープのラベルは印刷されたもので「MONKEY ATTACK」と書いてある。
    • ビデオデッキのボタン等のラベルは日本語。
    • ビデオデッキの上にレトロなブラウン管テレビが置いてある。
    • テレビには二人の猿人が演じている映像。
      • 白ハチマキの一人が仰向けに倒れている。
      • 赤ハチマキのもう一人が白ハチマキの体を揺さぶって声をかけている。
      • 赤ハチマキは背中に矢筒を背負っていて、矢筒には矢が一本入っている。
  • それをコロンブスたちと猿人たちが見ている。
    • 猿人6人のうち2人は3Dメガネらしきものを着用している。
  • テーブルにはポップコーン、コップ(中身はコーラ?)が置かれている。
  • ナポレオンがマカロンを食べている。
    • テレビの映像のアップ。
      • 白ハチマキに呼びかける赤ハチマキ。
      • 白ハチマキの上半身を抱きかかえる赤ハチマキ。
        • 手前に弓(?)が落ちている。
      • 天に向かって何か叫ぶ赤ハチマキ。
    • それを見て泣きそうになるコロンブス
    • 3Dメガネの猿人の一人がメガネをずらして目元を拭う。
    • ベートーベンもスキットルを両手で握りしめながら悲しげな表情。
    • 口を押さえて目から涙があふれるコロンブス
  • 02:17 ダイニングの映像(2)
    • 暖炉の上の壁にバッファローの角の置物がかかっている。
    • 暖炉の上に古代ギリシャの戦車の彫刻が置いてある。
    • テーブルの奥の席に着席し、肘を付いて手を組むコロンブス
    • 両脇の席に猿人たちが着席して机の上の望遠鏡や羅針盤や地球儀等を触っている。
    • 机の上に古い海図(?)が広げられている。
  • 02:24 リビングの映像(14)
    • 三人の歌と演奏と猿人たちのダンス。
    • 壁や入口に電球のイルミネーション。
    • 途中で猿人がキーボードを激しく弾いている。
  • 02:39 ダイニングの映像(3)
    • 「ダイニングの映像(2)」の続き。
  • 02:42 リビングの映像(15)
    • 三人の歌と演奏と猿人たちのダンスの続き。
  • 02:44 星空の映像(A1)
    • 背景は星空。
    • 地上の遠景は山の稜線と森林。
    • 人力車(引き手は猿人)にコロンブスが乗っている。
    • ベートーベンが走っている。
      • 手前にキックボードがあるが乗っていない。
    • ナポレオンが乗馬マシンに乗っている。
      • 右手に抜き身の剣。
  • 02:42 リビングの映像(16)
    • 三人の歌と演奏と猿人たちのダンスの続き。
    • 猿人がキーボードを弾き、その後ろで猿人たちが踊る。
    • ナポレオンがマカロンを口に加えながらエレキギターを弾く。
    • ベートーベンが指揮棒を振る。
  • 02:52 ダイニングの映像(4)
    • 「ダイニングの映像(3)」の続き。
    • 猿人が帆船の模型を手にして眺める。
    • 猿人が地球儀を回す。
    • コロンブスが指を立てて何かを話している。
    • コロンブスが地球儀を右手に持って左手を挙げる。
    • 猿人たちが呼応して手を挙げる。
    • 猿人たちが机の上で卵(ゆで卵?)を立てようとする。
      • みな転がってしまう。
      • 一人の猿人が卵を食べてしまう。
    • コロンブスが卵を机に叩きつけて底を割って立てる。
    • 自慢げなジェスチャーコロンブス
    • 立ち上がってバンザイする猿人たち。
  • 03:09 リビングの映像(17)
    • 三人の歌と演奏と猿人たちのダンスの続き。
  • 03:12 星空の映像(B1)
    • 背景は星空。
      • 「星空の映像(A1)」とは別の星空と思われる。
    • 低空の雲が光っている。
    • 地上の遠景は山の稜線と森林。
      • 「星空の映像(A1)」とは別の場所と思われる。
    • 人力車(引き手は猿人)にベートーベンが乗っている。
    • コロンブスが走っている。
      • 手前にキックボードがあるが乗っていない。
    • ナポレオンが乗馬マシンに乗っている。
    • 周囲で大勢の猿人が飛び跳ねながら手を振っている。
    • 両手で二人の猿人を抱き寄せるコロンブス
  • 03:09 リビングの映像(18)
    • 乗馬マシンに乗ったナポレオンが剣を振りかざして叫んでいる。
    • その横で猿人たちが敬礼をしている。
    • ピアノを弾くベートーベン。
    • その左右に座った猿人が一緒にピアノを弾いている。
  • 03:23 星空の映像(B2)
    • 乗馬マシンに乗りムチを振り回すナポレオンのアップ。
    • 人力車に乗り指揮棒を振り回すベートーベンのアップ。
  • 3:25 リビングの映像(19)
    • 三人の演奏と猿人たちのダンスの続き。
  • 03:23 星空の映像(A2)
    • 背景は星空(「星空の映像(A1)」と同じ)。
      • 大きな流れ星が流れる。
    • 人力車(引き手は猿人)にベートーベンが乗っている。
    • キックボードにコロンブスが乗っている。
    • 乗馬マシンにナポレオンが乗っている。
  • 03:33 島の俯瞰映像(3)
    • 夜中。
    • 海面に星が写っている。
  • 03:35 リビングの映像(20)
    • 猿人たちは皆ソファーや床で寝ている。
    • 部屋の照明が消灯している。
    • 机の上に食べ残しのケーキ、お菓子、空のコップ等々。
    • リビングの入口にコロンブスたち三人が立っている。
    • 三人は黙って立ち去り入口の方へ。
      • コロンブスが名残惜しそうに猿人たちを見て、少し遅れて立ち去る。
  • 03:40 玄関の映像(2)
    • 玄関から三人が出ていく。
    • 最後に出たコロンブスがドアを閉める。
  • 03:46 藪の映像
    • 家の外は低木の生えた藪の中のけもの道。
    • コロンブスがランプを持って先頭に立って歩く。
    • 立ち去る三人の足元に瓦礫。瓦礫にアルファベットのプレートが混じっている。
      • 左から B, A, B, E, L と読める(Eが読みにくいが)。
    • 藪の中を進む三人。三人ともランプを手にしている。

全体の構成について

MV 中のカットは大きく二種類に分けられる。一つは島の家を俯瞰で撮ったり家の室内を撮って劇中の「現実」を表現したカット。もう一つは背景に島には存在しないはずの風景(山、風車、ピラミッド、森林等)が写っているイメージカットだ。

全体のストーリーを構成しているのは前者であり、その導入部のコロンブスたちと猿人たちのファーストコンタクトのシーン(「00:07 玄関の映像(1)」「00:15 リビングの入口の映像」)で劇中の世界設定を提示していると見るべきだろう。

この時点でコロンブスたちは何も持ち込んでいないのだから、家の中にあるものは全部最初からあったもの、つまり猿人たちの文明の産物と見るのが常識的な判断ではないか(そうでない可能性については後ほど検討する)。ここで写っている様々な物は室内パート全体で一貫して描かれているし、ここでは写っておらず後から登場する物(「00:54 リビングの映像(2)」から出てきて「02:01 リビングの映像(13)」で重要な役目を果たすテレビ等)とも一貫性があるので、気まぐれで置いてあるとは考えづらい。

だとすると、ここでは猿人たちがコロンブスたちが来た時代よりもはるかに現代的な文明を持っていると考えるべきだ。ケーキもピザもマカロンも焼けるし、コーラもあるし、レトロなデザインながらラジオなどの家電もある。本もあるのだから文字だって使えるはずだ。そもそもこの家自体がモダンな作りで、到底野蛮人の住処には見えない。

そして、このとき猿人たちがやっていたのが「ホームパーティー」だ。ここから先ラスト直前まで、コロンブスたちを交えてパーティーが続く。大筋で言うと、コロンブスたちは猿人たちのホームパーティーに飛び入り参加して客人としてもてなされている、と見るのが自然だろう。

パーティーは深夜まで続き、遊び疲れたのか猿人たちは皆寝てしまう。コロンブスたちは猿人たちを起こさないように黙って家を後にする。コロンブスたちが家を出ると風景は一変する。冒頭や要所要所で出てきた島の俯瞰映像からは考えられない藪の中。一体なにがあったのか?

彼らが立ち去った後の地面には瓦礫が見え、そこにはアルファベットのプレートが混じっている。プレートのアルファベットを左から順に読むと「BABEL」と読める(「03:46 藪の映像」)。創世記の「バベルの塔」を連想させるこの演出は、猿人たちの文明が神話の時代に滅びた高度な文明であることを暗示しているものと思われる。*2

今までのホームパーティーコロンブスたちがタイムスリップして訪れた過去か、あるいは超古代文明の遺跡が見せた幻覚か、そういったところであろう。

コロンブスたちは猿人たちに文明を伝えたか

多くの人が主張している「文明的なコロンブスたちが野蛮な猿人たちに文明を伝え、教化し、啓蒙している」という構図は成り立つだろうか?

ファーストコンタクトのシーンを世界設定の提示と見るなら、基本的にそれはありえないのではないか。猿人たちが「野蛮」と言えるような演出もほぼ皆無なのだ。敢えて挙げるなら「コロンブスの卵」のシーン(「02:52 ダイニングの映像(4)」)で卵を食べてしまう猿人がいるところぐらいだが、これを野蛮と言うのも大げさ過ぎる。

コロンブスたちがピアノや馬の乗り方を教えている、というのはどうだろう?確かにそのようなシーンはあるが(「00:33 リビングの窓際の映像」「01:20 リビングの映像(4)」等)、ここで問題になるのが、ピアノや乗馬マシンがどこから来たのかということだ。

これらのものをコロンブスたちが持ち込んだということを示すシーンはない。元々彼らはほぼ手ぶらでここに来ている。小道具程度のものなら細かいことを言わなければ、実は懐に入れていました的に解釈可能だろうが、ピアノや乗馬マシンとなると無理がある。ならばこれらは猿人たちの家に元からあったと考えるのが自然だ。

だとすると、家にいた類人猿たちがピアノや乗馬を嗜んでいるのかはわからないが、少なくとも類人猿たちの文明にピアノや乗馬が存在することは確かだ。であるならば、ベートーベンがピアノを教えたり、ナポレオンが乗馬を教えたりするのを「文明を伝える」行為だとするのはおかしい。

これは単に彼らが「本職」としてピアノや乗馬を指導していると見るべきではないか。現代文明を生きる我々だってベートーベンより上手くピアノが弾けたりナポレオンより上手く馬に乗れたりなんてことは通常ありえないのだから、これを「文明 vs 野蛮」などという構図で解釈する必要はない。

また、ベートーベンとナポレオンがやっていることを細かく見ると、ざっくりピアノや乗馬を教えているというわけではない。ベートーベンは自分が作曲した「交響曲第3番」を教えているのだし(「01:09 リビングのピアノとリビングの入口の映像」)、ナポレオンは単に乗馬というよりはムチの入れ方にダメ出しをしているように見える(「01:20 リビングの映像(4)」)。乗馬マシンでしか乗馬を知らないこの家の猿人たちがムチの使い方に鈍感というのはありそうなことだ。

一方、コロンブスが「コロンブスの卵」でドヤるシーン(「02:52 ダイニングの映像(4)」)は解釈に苦しむところがある。

そもそもダイニングの映像の位置づけがわかりにくい。最初はこれもイメージ映像のパートかと思ったのだが、壁にかけたバッファローの角*3 などリビングと共通点があるので、これも家の中、劇中の現実、という扱いだと思われる。

猿人たちがダイニングでコロンブスの時代の航海用具や帆船の模型や地球儀をいじっているが、これを「文明を伝える」行為と解釈できるだろうか?そもそもこれらの物はコロンブスが持ってきたのだろうか?正直よくわからない。

劇中にそれらを持ち込む描写はないが、これらの物はコロンブスたちの時代のものであるから、細かいことを言わなければ持っていても不自然ではない。猿人たちが興味深く見ている以上、猿人たちには物珍しい物ではあるのだろう。

地球儀に関して言えば猿人たちの家に最初からある(「00:15 リビングの入口の映像」)のだが、あくまでインテリアとして置いているだけで、猿人たちはそれをどう使うかというようなことはよく知らないのかもしれない。

しかし、それが上から目線で文明を伝えることになるかというと… そもそもこの家には電気が通っていて家電製品もあるのだ。ビデオデッキすらあり、映画だってある(「02:01 リビングの映像(13)」)。猿人たちは超古代文明の継承者ではあるが、航海術のような古い技術は劇中の時代では失われている、ということなのかもしれない。

そして「コロンブスの卵」だが、これは「文明を伝える」とか「啓蒙する」とか「教化する」とか、そういう話ではないと思う。それは「ひらめき」や「常識にとらわれない自由な発想」が大事、という話だ。未知の世界を冒険するならそれが大事なのだ、既存の知識や教養よりも、と。ゆえに、ここはむしろ、猿人たちの文明が高度だからこそコロンブスのひらめきが際立つ、というシーンなのではないか。

もっともここでのコロンブスは実際にこの場で「ひらめいて」いるわけではなくて、持ちネタ的にそれを演じているに過ぎない。僕にはこのシーンのドヤりコロンブスが「偉そう」「上から目線」というよりは「おちゃめでかわいい」キャラに見えた。少なくとも「ここは笑うところ」というニュアンスを感じた。猿人たちの大げさなリアクションも含めて。

とは言っても、そもそも「コロンブスの卵」の逸話自体が創作であろうと言われているし、実話だったところで「常識にとらわれない自由な発想」の結果が侵略と虐殺ですか?という話にもなり… もっともそこは、そもそもこの曲がコロンブスをテーマにしていること自体の問題なので、MV の映像表現がどうという話ではない。

コロンブスたちは猿人を使役しているか

劇中たびたび出てくる、コロンブスたちが乗った人力車を猿人が引いているというシーン(「00:25 道路の映像(1)」等)が、多くの人たちに「猿人=原住民を使役している」「奴隷にしている」等と解釈されている。

確かにそのシーンだけ見ると「絵面が悪すぎる」という印象はある。しかし事前に、そしてその後も繰り返し、猿人たちが高度な文明を持っていることが提示されているのだし、猿人たちがホストでコロンブスたちがゲスト、という構図は一貫しているのだから、絵面だけで判断する話ではないと思う。

そもそも人力車が出てくるのはすべてイメージ映像パートで、室内パートには出てこず、ストーリーには一切関わってこない。キックボードもそうだが、なぜか乗馬マシンは室内パートに繰り返し登場するのでややこしい…

ちなみにナポレオンが乗っているのを馬だと思っている人が多いが、よく見るとリビングの映像に出てくる乗馬マシンと同じものだ。それは予算の都合でそうしているだけで、ここは本物の馬だと見立ててみるべきなのだろうか?よくわからない。

それはさておき、劇中での人力車の位置づけはイマイチよくわからない。単なるイメージなのだろうか?ともあれ、メインのストーリーラインが「猿人が客人であるコロンブスたちをもてなす」というものなのだから、使役しているとか奴隷にしているというのは、初見の印象としては理解するが、MV 全体を見ての解釈だとするならば、正直言って突拍子のない解釈だと言わざるを得ない。

そもそも人力車の引き手は奴隷なのだろうか?映像に出てくるような人力車は明治時代に日本で発明された乗り物で、基本的には今で言うタクシーみたいなものだ。我々はタクシーに乗る時にタクシー運転手を「使役」しているのだろうか?タクシー運転手を「奴隷」だと思っているのだろうか?さすがにそんな人は少数派だと思いたいのだが…

もっとも、欧米目線で見ると人力車というのはかなりヤバい乗り物に見える、という話はある。同じ人間が人間を運ぶという図式に違和感を感じるらしいのだ。

1869(明治2)年、日本で発明されたという説が有力な「人力車」。そのヒントになったのは「二輪馬車」や、中国やヨーロッパで使用されていた「セダンチェア」(人力で運ぶ椅子かご)だったといわれます。ただし、ヨーロッパでは近代化とともに「同じ人間が動力の乗り物」に乗ることへの違和感が生まれ、人力の乗り物は次第にすたれていきました。
(中略)
同じ人間が動力である乗り物を、忌避したといわれる欧米の人びと。その一方で、欧米で開催された万国博覧会では、人力車を曳く日本人の車夫が見世物として展示された例もあるといわれます。
日本発祥(?)の「人力車」文化、海外ではどんな歴史をたどった?(季節・暮らしの話題 2017年04月22日) - 日本気象協会 tenki.jp

こういう文化の違いがあるのだとすると、欧米の人たちにはあのシーンが「使役」「奴隷」のイメージに写ってしまうかもしれない。表現意図はどうあれ、海外にも向けた映像表現としてはマズいとは言えるのかもしれない。

猿人たちの文明レベルは本当に高い?

ここまでの議論では「猿人たちは高度な文明を持っている」「それは MV の冒頭で提示されている」という前提で進めてきたが、本当にそうだろうか?それ以外の解釈はありえないだろうか?

たとえば「あの家は猿人たちのものとは別の文明が遺したもので、猿人たちはコロンブスたちより一足先に家を訪れて家の中の物を勝手に使ってパーティーしていただけ」というのはどうだろう?これなら「野蛮な猿人」という解釈に持っていけるだろうか?

しかしこの説だと「02:01 リビングの映像(13)」のビデオで映画を見るシーンが説明できなくなる。映画は猿人の映画なのだ。別の文明がたまたま猿人の映画を撮って遺していた、というのもありえなくはないが、それを当然のように猿人が手に取ってデッキにセットして特に驚くでもなく普通に視聴して感動して涙を流す、というのは無理があるだろう。

猿人たちがだいぶ前から家に来ていて家での生活に既に慣れていた、とするならどうだろう?しかしその場合、冒頭のシーンで出てきたケーキやピザやマカロンなどの食べ物は自分たちで作ったということになるだろうし、テレビやビデオにも慣れてしまっているということになる。結局高度な文明が身に付いてしまっているということになり、もはや猿人たちを「野蛮」とは呼べない。

映画のビデオテープは実はコロンブスたちが持ってきた、というのはどうだろう?これもなんでコロンブスたちが猿人の映画を持っているのか意味不明だし、そういうことならビデオテープをデッキにセットするのはコロンブスたちがやるのが自然だ。しかし実際には猿人がセットしている。迷うことなくスムースに。

ビデオテープは映画ではなく猿人たちが家に来てから家にあったビデオカメラで撮影したホームビデオ、あるいは自主制作映画だ、というのはどうだろう?しかしビデオの背のラベルは明らかに印刷されたもので、これはセルビデオと解釈するのが自然だろう。ホームビデオの類ならラベルを手書きにするはずだ。というか、ビデオカメラまで使いこなしているのなら既に十分文明的だ。

ちなみに映画に登場する猿人がヤリを持っているから原始的と言っている人がいたが(よく見ないとわからないが実際にはヤリではなく弓と矢)、これは映画なのだからそれが「現代人」(劇中の現在の猿人)の文明レベルだとは限らない。歴史映画で過去の文明が描かれているということも十分ありうる。

猿人の家のあちこちに西洋人の胸像が置いてあるのはこの家が猿人のものではないことを暗示しているのでは?というのはどうだろう?確かにそこは不思議な部分だ。胸像は複数あり(「00:07 玄関の映像(1)」と「00:15 リビングの入口の映像」)ただの気まぐれで置いてあるとも考えづらい。

猿人は超古代文明の継承者だが、猿人が猿人の姿になる前には現代人の姿をしていた時代があった、という設定なのかもしれないが、正直よくわからなかった。とはいえ、ストーリー内の重要な描写で猿人の文明レベルが明示されている以上、この暗示的な描写をもってそれを否定するというのは難しいと思う。

そんなわけで、猿人たちの文明が現代的で高度なものである、という線を崩すような解釈は極めて困難なのではないか。となれば、冒頭には出てこなかった電子楽器や乗馬マシンなども猿人たちの文明の産物と考えるのが自然であろう。

コロンブスたちの文明レベルはどうなの?

ここまでの議論では「コロンブスたちは彼らが生きた時代の文明レベルのままである」と仮定している。そうではなく、彼らが実は現代文明に馴染んでいて、電子楽器や乗馬マシンコロンブスたちが持ち込んだものだ、という解釈は可能だろうか?

少なくとも直接的にそれを裏付けるような描写は一切ない。ただ、一箇所奇妙な点がある。コロンブスエジソンとその発明を知っているのだ(「01:29 ダイニングの映像(1)」)。普通に考えれば19世紀生まれのエジソンを15世紀生まれのコロンブスが知るわけがない。これはコロンブスが現代文明に馴染んでいるという証拠なのだろうか?

しかし、このシーンでは切れた電球をペシペシ叩くばかりで直すことも交換することもできず「Hi Edison」「How can I fix the light?」と書いている。エジソンのことは知っていても電球のことをよく知っているようには見えない。

そもそもコロンブスに同行するベートーベンもナポレオンも同時代の人物ではなく、本来一緒にいるはずがない。それができるという設定なのだ。だとすれば、別の旅でコロンブスエジソンと出会っていた、という設定があっても不思議はないのかもしれない。偉人のネットワークみたいなものがあって偉人同士は時を超えて出会える、みたいな設定なのだろうか?

もっともこの電球はもともと猿人たちの家にあった可能性があるし、この電球がそうでなくても、猿人たちは電球のイルミネーションをリビングに飾り付けているのだから(「02:24 リビングの映像(14)」)、コロンブスも電球を知ってるくらいでドヤれる立場ではないだろう。

MV の削除・謝罪は妥当だったか

記事冒頭でも触れたが、主人公がコロンブスで、彼を偉人扱いで肯定的描いている、という時点で一線を越えている、と考えるのが今時の価値観であり、それだけで削除・謝罪に値するだろう。*4

では、そこは謝罪するとして、映像内容に対する誤解、あるいは言いがかりに近い批判については反論も含めて釈明することはできただろうか?正直、あの状況でそれは無理だろう。火に油を注ぐことにしかならないし、肝心の謝罪も無効化されてしまいかねない。ならばそこは触れず、誤解の原因となった諸々について過ちを認めて謝罪するしかないだろう。

結局なぜみんなあんな解釈をしたのか

しかし MV を仔細に検討すればするほど、どう考えても大多数の人がそう思うような、あるいは報道でまとめられているような、エグい話は描かれていないとしか思えないのだが… なんでみんなあんな解釈をしているのだろうか?

ひとつには、身も蓋もない話だが、まともに映像を見ていない可能性。これが大半なんじゃないかとも思うけれど、唐木元氏のようにかなり詳細に検討している人もいるし、それを読み、その内容を踏まえた上でなおあんな解釈をしてる人も見かけるので、それだけではないだろう。

そもそも曲のテーマがコロンブスで、MV の主人公もコロンブス、というところでバイアスがかかってしまった、というのもありそうだ。あのコロンブスのやることだから当然極悪非道であろう、という…

また、これは MV の制作スタッフもかなり気にしていたようだが、島の原住民が猿人であることによる先入観というのもあるのかもしれない。毛むくじゃらで服も来ていない猿人が文明的であるはずがない、野蛮であるに違いない、という…

いやでもそれって偏見だよね?しかも劇中で「猿人なのに文明的!」というパラドックスを最初から提示しているのに、それでもそうなるの?というのが正直信じられない思いだ。

もうなんでもいいからお前ら高度な文明を持つ獣人のアニメを観ろ!

逆になんで僕が「猿人なのに文明的!」という設定をすんなり受け入れていたのか?ということの方が問題なのかもしれない。なんでだろう?

一つだけ思い当たるフシはある。僕の好きなアニメに「人類より高度な文明を持った獣人」がヒロインの作品があるのだ。すなわち『ナノ・インベーダーズ』だっ!

ナノ・インベーダーズは2014年に制作された日中合作のテレビアニメシリーズ。ターゲット層はおそらく小学生以下の子供たちで、海外ではアニメの放映に合わせて変身アイテム等の玩具も発売されている。

主人公のヒカルは「とにかく底抜けに明るくて元気な」男子小学生。要するにバカなんだが、こいつがスーパーヒーローになり地球を救う、というストーリーだ。

そしてヒロインのミミというのがヒカルの小学校に転校してきた「アニマ星人」の女の子。アニマ人は本来は獣人の姿の宇宙人だがナノデバイスで地球人に化けて地球の社会に紛れ込んでいる。その目的は地球侵略。

https://rna.sakura.ne.jp/share/diary/nano-invaders-20141017-00002.png
https://rna.sakura.ne.jp/share/diary/nano-invaders-20141017-00001.png
『ナノ・インベーダーズ』第2話より。最初の画像の左の紫色の獣人がミミ。二枚目は地球人に化けたミミ。

高度な文明を持ち誇り高きアニマ人のミミはハッキリ言って地球人をバカにしている。もちろんヒカルのこともバカにしている。まあ、ヒカルは実際バカなんだが…

倫理観という点でも地球人に批判的で、地球人が動物園に動物を閉じ込めていることに対しても不快感を示している。まあ、自分たちが獣人だから、という話でもあるのだが。

しかし、そんなミミが… と話し出すとキリがないのでこのへんにしておこう…

最後に

くどいようだが僕は別に Mrs. やあの MV を擁護したいわけでないし、削除・謝罪も当然だろうと思うのだが、MV の内容についてほとんど曲解としか思えない解釈がまかり通っているのが納得できなくてこれを書いた。相手は実際「悪」なのだから何を言っても構わない、あることないこと言っても構わない、とは思わない。あることは言っていいが、ないことは言ってはいけない。ただそれだけのことだ。

最後まで読んでくれてありがとう。『ナノ・インベーダーズ』を観てください。


追記(2024/6/15 12:00): ロマン優光氏の記事について

このエントリは14日の昼頃から書き始めて15日の朝に書き終えたのだが、その間にロマン優光氏が「Mrs.GREEN APPLEコロンブス』のMVを見た」という記事を公開していた。

「考察したところで矛盾がやたらと生じるのであまり意味がなく」としつつも、猿人たちが「偉人たちよりも進んだ文明を持っている」という点は押さえているし、コロンブスたちが何かを教えているシーンも「特技で交流している」と解釈していて、その点も僕の解釈に近い。

ただ「それだったら類人猿からも何かを教わるシーンを入れたらよかったのではないだろうか」というのはどうなのか…

猿人の立場に立って考えて欲しい。自分たちよりも低文明の異邦人が来訪して、それを客人として迎えてパーティーに混ぜてあげる。そんな時に「上から」で何かを教えるなんてことは、真っ当な文明人ならやらないだろう。自分たちの文明の紹介という点ではビデオで映画を見せたり電子楽器を弾いてもらったりで十分だ。ことさら「教える」必要なんてない。

ちなみにナポレオンはともかくベートーベンは上から教えているというよりは、部屋にピアノがあるのを見て弾かせてもらったのがきっかけで、猿人たちに、その曲は何だ?教えてくれと請われて教えた、という風にも見える。ナポレオンはまあ… エキサイトして剣を振り回すシーンが度々あるし、どちらかというと「野蛮」サイドの人間という描かれ方だと思う。

なので「絶妙に首尾一貫性がなく」と言うほど矛盾が多いわけではないと思う。「専門的な知識があまりない人が感覚優先で無邪気につくった」というのは間違いないとは思うが、雑は雑なりに肝心な部分の筋は通っているというのが僕の感想だ。

しかしロマン氏、ここまで見えていていながら… それほどまでに猿人というのは感情移入しにくく、猿人の立場でシーンを解釈するというのが難しいものなのだろうか?たった4分の MV に多くの設定を詰め込みすぎてシーンチェンジも激しいので、どうしても先入観を優先してしまいがち、というのもあるのかもしれないが。

「日本のものである人力車を入れたのも意味がよくわからない」については、僕も本当にわからない。わからないがゆえに、反射的に自分の中のステレオタイプ(否定すべきものと認識してもるものも含む)に当てはめて解釈してしまわれがち、というのがこの MV の不幸の始まりだったのかもしれない。

レーベルやメンバーが敏速に対処し、謝罪文をだして説明したことは評価できるし、冷静に事態を理解しようとしているファンが多かったのも立派だった。

コロンブスの現代の評価を知らない人のほうが多いのが日本の現実だ。そのことには問題があるのだけれど、知らなかった人をバカにするようなことをSNSでやるのは禍根を残すだけだし、この件に直接関係のない楽曲の良し悪しとか、メンバーの人格とか学歴をわざわざ中傷している人はほんとやめといたほうがいいと思う。それは批評でもなんでもない。
Mrs.GREEN APPLE『コロンブス』のMVを見た:ロマン優光連載295 | ページ 5 | 実話BUNKAオンライン

これは本当にそう思う。

*1:三者である僕ですらそうなのだから、MV 制作に関わった人たちはもっと辛いのではないか?どうか気を強く持って欲しい…

*2:もっともこの「BABEL」はさすがに初見では読み取れないと思う。僕も三回目ぐらいで一時停止してよく見ないと無理だった。とはいえアルファベットが混じっているのは一見してわかったので、今はなき文明の痕跡というニュアンスは最初から伝わった。

*3:この「バッファローの角」が植民地時代のアメリカでの白人入植者たちとアメリカ先住民との争いの歴史を踏まえるとかなり不穏であるという指摘がある(渡部宏樹氏の 2024/6/13 16:23 のツイート)。バッファローは先住民たちの主要な資源だが、入植者たちは「兵糧攻め」の意図でバッファローを虐殺した。トロフィーとしてのバッファローの角には植民地時代の白人入植者の蛮行を肯定するニュアンスがあり、連邦議会襲撃事件で目立っていた「Qアノン・シャーマン」(ジェイク・アンジェリ)が頭にバッファローの角を付けていたのもその流れだという。

*4:冒頭で引用した『荻上チキ・Session』でゲストとしてこの件に批判的にコメントした竹田ダニエル氏も荻上氏の「文明対野蛮の構図」をほぼスルーして基本その点のみを批判していた。