プライバシーの権利とか

先週から書いてながらまとまってなくて中途半端ですがこのまま up します。

[id:rna:20060311:p2] で続いている件、僕自身論点を把握しきれてないのと、この流れの中で直接的にやり取りを続けると端で読んでいる人もついてこれないのではないかと思うので一度エントリの形で(把握できている範囲で、ですが)整理するということでお返事とさせてください。

プライバシー

僕がこれまでの議論でプライバシーという言葉を曖昧に使ってしまったことで、混乱を招いてしまっていると思います。

僕が「私信の公開はプライバシーの侵害にあたるのでイケナイ」という場合のプライバシーというのはかなり狭い意味で使っています。すなわち、私生活上の秘密であり通常人が他人に知られたくないと思う情報、というような意味です。秘密であることが重要なので、一度暴露されると回復不能な損害を与えうるものです。

これに対して名誉や信用それ自体は通常回復可能、というか回復困難なケースは上の意味でのプライバシーの侵害が伴う場合だと思います。「弁護士佃克彦の事件ファイル」のまとめがわかりやすかったので紹介します。

 他方、非公人に関する言論の場合の差止の要件については、今後の研究・事例の蓄積によって決めていくしかないでしょう。
 私なりに考えている方向性としては、金銭賠償や謝罪広告によっては回復できない損害かどうか、という点が十分に吟味される必要があると思います。
 たとえば、非常に荒っぽい議論ではありますが、第1に、論評による名誉毀損であれば金銭賠償と反論によって被害の回復が可能な場合が多いでしょう。
 第2に、虚偽の摘示による名誉毀損の場合には、事実訂正の謝罪広告によって被害回復が可能な場合が多いでしょう。
 第3は、真実の摘示による名誉毀損の場合。これは通常、同時にプライバシー侵害を構成することが多いと思われます。プライバシー侵害を構成しない純粋な真実摘示の名誉毀損というのは事例的にはあまり考えられませんが、もしそのようなものがあった場合、「そのような虚名をどれだけ保護する必要があるか」に関する価値判断によって判断が分かれる問題でしょう。
 第4に、プライバシー侵害の場合には、一旦公表されてしまえば致命的である場合が多いでしょうから、事前差止を肯定する方向に傾きやすいのではないでしょうか。
「石に泳ぐ魚」出版差止事件(最高裁編) PART4(弁護士佃克彦の事件ファイル)

そういうわけで、「プライバシー侵害」と「名誉毀損」は便宜的なカテゴリというよりは実質的な違いがあると考えます。

通信の秘密

憲法の「通信の秘密」に swan_slab さんの言う「第三者に公開されない予測可能性を持ちうる自由なコミュニケーション媒体の保護」という意味が含まれるのはその通りだと思いますが、これは「通信路の秘密」とでもいうべきもので、通信当事者から情報が漏れることに関してはカバーしていないと思います。

第21条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

21条は「表現の自由」に関するものですし、ここで言う「通信の秘密」は「検閲の禁止」と同様、公権力による表現の「モニタリング」が自由な表現を阻害するものとして禁止されているのではないでしょうか。

公権力ではない通信事業者の場合でも「通信の秘密」の保護は第三者によるモニタリングの禁止として規定されているようです。

逐条解説電気通信事業法を探し出してきて、改めて読み直しました。
第4条(秘密の保護)ですが、解説によると、
「通信の秘密を侵す」とは、通信当事者以外の第三者が積極的意思をもって知得しようとする
ことのほか、第三者にとどまっている秘密をその者が漏洩すること及び窃用すること
とされています。
Re:要するに告発サイトのことですか(悪徳商法?マニアックス 掲示板)

僕のこれまでの立論では、通信路を流れる情報でもプライバシーに関わらない情報ならモニタリングしてかまわないんじゃないかと思わせるものがありましたが、これは撤回します。「通信の秘密」には表現の自由の保護という意味がありプライバシーだけの問題ではないからです。

公共性、公益性

swan_slab さんは dan 氏のメール公開のようなケースを「プライバシー侵害」と考えても、あくまで不法行為だが目的の公共性、内容の公共性によって違法性が棄却される、という形で容認されうるとしています。

このケースではそうだと思うのですが、公共性・公益性ということがどこまで広く認められるべきなのでしょう? 名誉毀損の場合は、これ(+真実性)が認められると現実にシャレにならんくらいの損害が発生していてもお咎めなしです。

それだけにあんまり簡単に公共性・公益性ということを言いたくないし、逆に建前上公共性・公益性がデフォルトな報道メディアに対してブログみたいなメディアでは判断が微妙になりがちじゃないかと心配です。