有意差について

 あと、この件だけじゃないんだけど、以前にもいろいろな研究を紹介したら、なにかと「有意差はあるのか」という反論が出てくるんだけど、有意差がないのに学術誌で発表できるわけがないじゃん。社会科学の研究でも、その程度の統計はみんな当たり前にやってるに決まってるでしょ。心理学専攻のわたしだって大学2年生でそれくらい叩き込まれている。
 あんまりバカの一つ覚えみたいに「有意差はあるのか」という反応があるから、もしかしたら日本では有意差がなくても堂々と学会や学術誌で発表できるのかなぁ、みたいに思ってしまうのだけれど、まさかそんなことないよね?
おもしろい反応ご苦労様です。 (*minx* [macska dot org in exile])

さすがに日本でもそれはないと思いますが(たぶん)、学術論文の原文はともかく、それを紹介した文章を読む時には注意したほうがよい場合もあります。

たとえばある主張の根拠として関連する分野の最近の知見をまとめたレビュー論文に載っていた統計値が引用される場合があります。レビュー論文ではいろんな研究結果が紹介されるので、こういう実験で有意差があったという紹介もすれば、一方こういう実験では有意差がなかった、という紹介もします。で、その有意差がなかった方の数字(一見大きな差がある)が引用されてしまう、ということがたまにあります。

まともな学術誌に載っている論文なら論文の結論を導くような統計値に有意差がないということはまずありえない(査読通らないし)ので、いちいち「有意差はあるのか」などと疑う必要はないので、紹介を読む側としては何かひっかかりを感じたら「ここで参照されている論文ってそもそもそういう事を主張する論文なのか?」という点に注意しておけば十分だと思います。そのあたりは論文のアブストラクト(大抵は無料で公開されている)を見ればわかりますし、紹介のされ方で明らかな事もあるでしょう。

補足: 学会発表について

田中 『>さすがに日本でもそれはないと思いますが(たぶん)
 認識が甘いです。特に学会発表。』 (2007/08/29 20:26)

元記事で言っていたのは(真っ当な)学会の論文誌や Nature みたいな学術誌のことかと思ってました。よく見ると論文誌とは書いてないので微妙ですね。。。

学会発表だけだと審査なしのところもあって、有名なところでは日本物理学会がそうで、トンデモ系の研究が発表されているという話はあります。どういう事情でそうなっているのか、菊池誠さんがブログのコメント欄で書いていた話がわかりやすかったので引用します。

きくち September 25, 2006 @14:23:22

この話は以前も出たのですが、物理学会での発表は無審査です。発表は学会員の権利であって、学会員であれば発表できます。つまり、発表する権利は「学会の年会費」のうちなのです。
 
審査するかしないかの方針は学会ごとに違うと思います。
物理の分野では「海のものとも山のものともつかないアイデア」を発表して議論することが重要ですから、審査しません。学会は完成した研究を発表する場でもありますが、同時に、未成熟の研究を発表して「叩いてもらう」場でもあるのです。僕自身は後者の意義のほうが大きいと考えています。完成した研究なら、論文を読めばいいので。
つまり、審査制によって「もしかしたら大事かもしれない未成熟の研究」を締め出してしまうことに比べれば、無審査の副作用として「怪しい研究」も発表されてしまうことはたいした問題ではないと考えるわけです。
実際、この手の「怪しい研究」は全体の発表数に比べれば無視できるほど少ないので、この方針はうまく機能しています。
学会で発表したが論文にならなかった「まともな研究」もごまんとあります。それらは最終的に研究業績ではないわけです。
研究は最終的に論文として専門誌に掲載されてはじめて「業績」として認められるものです。当然、専門誌(日本物理学会のJournal of Physical Society of Japanなども含め)では論文掲載にあたって、きちんと審査します。とんでもない論文はこの段階でリジェクトされます。
 
ありていに言えば、物理学会で発表するというのは研究者仲間に研究内容を知らせることであり、それ以上でも以下でもありません。その点をご理解いただけばよいと思います

ししゃかもグループの発表 - コメント欄



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