はてな匿名ダイアリー(以下慣例にならい個々の日記及びその筆者を「増田」と呼びます)にあったフィンランド鉄道(VR)の車椅子対応の件ですが、
- 介助が必要な場合はカスタマーサービスに36時間前までに電話で介助スタッフ予約
- 乗車列車やどんなサポートが必要か事前に伝える
- サービスの利用は無料
https://www.vr.fi/en/facilities-and-services/accessible-train-travel
はてサが大好きな福祉先進国北欧の車イス対応についてのメモ — https://anond.hatelabo.jp/20210409174921
これについてはてなブックマークコメントで「36時間前までじゃなくて早くて36時間前、遅くて2時間前までに、って書いてない?」と書いたところ、いや、Assistance service at stations には36時間前までに予約って書いてある、との反論があったので補足します。
僕が言ってるのは Commuter traffic ramp service の章にある ramp service のことで、車両とホームの段差にスロープを付けるサービスです。ここには「You can order the service 36 hours before the trip at the earliest and 2 hours before the trip at the latest.」とあり、遅くとも2時間前に連絡を取ることになっています。
で、増田が言ってるのは Assistance service at stations の章にある「The assistance service should be booked 36 hours before the departure time of the train.」のことだと思うのですが、この assistance service というのは、一人で駅を使ったり電車を乗り降りしたりできない人をエスコートするサービスだと思います。
この章の Assistance in boarding the train 以降の節を見ると、出発駅では乗車する車両の席まで連れて行ってくれ、乗り換えでは正しい車両まで案内してくれ、到着駅ではタクシー乗り場やバス停まで案内してくれるようです。また、章の冒頭にはサービスの対象となる人として、高齢者、車椅子使用者、視覚障害者、聴覚障害者、自閉症スペクトラムの人、記憶障害のある人が挙げられています。
増田の「車椅子対応」が何を差すか明確ではありませんが、おそらく伊是名夏子氏の乗車拒否の文脈での話だと思います。伊是名氏は段差さえなければ電動車椅子を操縦して一人で移動でき、段差の解消または迂回を求めているので assistance service が提供するサービスは求めていません。なので、ramp service の方が求めるものに近いのではないでしょうか。
ただし、どちらのサービスも「車椅子を階段で持ち上げて運搬する」というサービスは想定していないと思います。
ramp service は車両とホームの段差にスロープを付けるだけだし、assistance service は「Please note that for security reasons, the assistant cannot lift the customer to or from a wheelchair.」とあって車椅子から利用者を降ろしたり乗せたりしませんし、安全上の理由でそうしないと言うくらいなので車椅子に乗せたまま階段上を運搬するなんてこともしないでしょう。
そもそも駅のアクセシビリティの状況はどうなのかということですが、Tips for a smooth train trip の章には「Most railway stations are primarily accessible.」「Some stations have lifts to make transfers easier.」とあり、駅構内は何らかの形で車椅子での移動が可能と思われます。が、全ての駅でそうなのかは不明です。
最後に伊是名氏の要求についての僕の見解を。
80kg*1 の電動車椅子を4人がかりとはいえ手で運ぶのはそこそこリスクはあり*2 仮に熱海駅長が断っていても責められるものではないと思っています。
この件は小田原駅の担当者が代替ルートを確保した上で案内する(案内できる体制にしておく)のが適切だったと思います。ただし常に代替ルートが使えるわけではないし、将来エレベーターを設置したとしても事故や災害等でどうしても電動車椅子を階段で運搬する必要も出てくるでしょうから、「モッコ」*3 なり「電ネコ」*4 なりを使って少人数で少しでも安全に運べる準備はあったほうがいいのではないでしょうか。
また、伊是名氏がクレーマーだとか過去の発言等から性格悪いとか思想的にどうなのかみたいなことも言われていますが、公共交通機関というのは性格悪かろうが過激思想の持ち主だろうがなんなら人殺しの過去がある人でさえ乗車拒否なんてしませんししてはいけません。仮に氏への批判が正当なものだったとしても*5そのことと公共交通機関のバリアフリーがどうあるべきかというのは別の話です。
追記: 増田は「介助が必要な場合」って書いてるのでそれだけ見ると間違いではないのだけど、assistance service の「assistance 介助」というのは施設上の(いわゆる)バリアフリーでないところを助けるということではなく、バリアフリーの施設であっても利用に支障がある人を助けるためのものだと思うので、文脈上は違う話なのでは、ということです。
*1:100kg説、120kg説などあったが、本人はJ-CASTの取材に80kgと答えている。ブログの写真を見るとおそらく当日使用の車椅子は、さいとう工房のレルミニシリーズ(最軽量のモデルが 83kg) https://saitokobo.com/product/ と思われる。
*2:骨しゃぶりさんのブログ「1台の電動車椅子を持ち運ぶのに何人の駅員が必要か? ただし労働基準法に従うものとする」でも検討されているように安全性の点ではギリギリの条件。
*3:肩ベルトで支えて二人で重量物を運ぶための道具。運送業者は100kg以上の家具やコピー機などをこれで運ぶ。
*4:電動で階段を昇降できる運搬車。100kg以上の荷物の階段での運搬を一人で行うことができる。参照: https://liftkar.net/
*5:個人的には不当なものが圧倒的に多いと思うが。