盗撮ポルノ: 何が問題か

通常、盗撮禁止の法規制が保護するのは被写体の権利と考えられているようです(個人的法益の保護)。

http://www.gender.go.jp/danjo-kaigi/boryoku/siryo/bo24-1.pdf より:

イ 盗撮に関する法整備

盗撮は、カメラによる犯罪であり、被害者の羞恥感情が傷つけられるのみならず、近年そうして撮影された画像が雑誌やインターネットを通じて流通するなど法益侵害の程度が強まってきているところである。盗撮事案については、住居侵入罪、軽犯罪法違反、いわゆる迷惑防止条例違反等として、取締りを行っているところであるが、住居侵入に問えない事案においては法定刑が軽いとの指摘もあり、盗撮を厳正に処罰するための法整備を行うことを検討する必要がある。

その法整備にあたっては、保護法益を女性の性的羞恥心として捉えるか、プライベートな空間に侵入を受けない自由として捉えるかということとも関連して、処罰すべき範囲をどこまでとするかなどについて、検討が必要である。

被写体となった人が自分が盗撮されたことを認識しなければ羞恥感情が傷つけられることはないので、「性的羞恥心」を保護するという立場だと撮ったのがバレなければ被害者はいないということになると思います。撮った写真が被写体の目に触れる場所に公開されなければ、あるいは以前から投稿写真誌などで見られるように目隠しやトリミングなどで誰だかわからないようにしてあれば OK ということになるのでしょうか。

「プライベートな空間に侵入を受けない自由」を保護するという立場だと、逆さ撮り*1はアウトだろうけど公共の場所でパンチラしてるのを撮るのは微妙な気が。ここでの「空間」とか「侵入」の概念がそのままの意味ではないと思うので、どう定義するかによると思います。


しかし、ここまでの話はてぃるるさんの憤りとはあまり関係ないような気がします。てぃるるさんはむしろ盗撮される事を心配しなくて済むような社会秩序を保護するために(社会的法益の保護)盗撮と盗撮作品の流通を規制せよと訴えているように思われます*2。手段の選択はともかくとして、目的に関しては一理あるとは思います。

盗撮という行為の性質上「今自分は盗撮されてない」という確信をもつ事は困難ですからひとたび盗撮される危険性を意識するようになったら常に他者の性的視線を内面化して生活することになりかねません。ことの善し悪しは別にして、ここにパノプティコン的な権力が作用しているのは確かではないかと。

そういう観点からするとてぃるるさんが「盗撮」を広く解釈している(らしい)のもわからなくもないです。つまり予期せぬ過剰な視線*3に晒される状況が常態化すれば、やがて見られる側は常に見られる事を予期して自分の行動を規制する、すなわち(以前より)不自由になるのですから、いわゆる盗撮でなくとも [id:rna:20040826#p1] で触れた「別の(イヤな)文脈に置いて晒す」という行為が繰り返されれば同じ効果があるのかも。

もっとも、この拡大解釈された〈盗撮〉が本当に問題なのかどうかは、そこで生じる不自由の程度や質がどういうものかによるでしょう。てぃるるさんの主張はそのへんがはっきりせず焦点がどこにあるか不明なので、エキセントリックなところばかり目についてしまうのでは。

一般に自分で公共の場に出てきて他者の視線で不自由になるのは当たり前なことだし必要なことですらあるので問題にならないとは思います。しかし同じ公共の場でも街の広場とネットでは違うので、街の広場のシーンを切り取ってネットに公開するのは問題かも。ネットに晒される覚悟までしなきゃ街の広場にも出れないというのはちょっと納得いかないので。一方はその時その瞬間の半径100メートル程度からの視線を気にしていればいいだけなのに、もう一方は半永久的かつ全世界からの視線を想定しなくちゃならないわけですから。


*1:スカートの下からカメラを上に向けて下着等を撮る撮影法。

*2:そう解釈しました。感情的な文章で真意を掴めない部分が多々あるので外してるかもしれませんが。

*3:例えばお祭りの会場の外で、お祭りが終わってからもずっと見られるということ。