昔([id:rna:20040423])ねこがすずめつかまえて枕元に持ってくる話を書きました。こういう行動は一般には「飼い主に狩りの成果を自慢している」と解釈される事が多いのですが、そうではないらしいという話のソースを。
[id:rna:20040519#p2] で紹介したパウル・ライハウゼン『ネコの行動学』ASIN:4886223036 p107 より:
イエネコではわりあいひんぱんに、そしてときには去勢された雄ネコでも、何年もの間つづくこのような「運搬の過剰」が見られる。ネコはうろつきまわっている間にとらえたハツカネズミやドブネズミの大半を家にもって帰り、きれいにならべる。そして世話をすべき子どもがいないために、代わりに、もっとも親しんだ人間に「マウスを誘う声」(三三九頁以下)で「話しかける」。そのようなネコの飼い主は、ネコが自分がどんなに勤勉かを飼い主に自慢したいのだ、と解釈するのがふつうだ。飼い主が「しとめられた獲物」を実際によく調べて、ネコをやさしくなでながらほめるまでは、ネコはあとに引かないことが多いだけに、そう解釈するのももっともである。ところが、ネコにとってここでもっとも重要なのは、実は「ほめられること」ではなく、もってきた獲物のところに「子ネコの代用」をしている人間が実際に行くことなのである。本物の子ネコなら、母親に誘われたときにそうするからである。
ライハウゼンは獲物の運搬を体内的な原因による「母性の発作」によるものとしています。大人のネコ相手にこれをやることもあるんだとか。
デズモンド・モリス『キャット・ウォッチング』ASIN:4582542115 p106 より:
なぜ、とりたての獲物を飼い主に届けるのか
ネコがこれをするのは、彼らが飼い主を無能なハンターだと考えているからだ。ふだん彼らは人間を代理の親とみなしているが、この場合は自分の家族、つまり子ネコだとみなしているのだ。親ネコは、子ネコがネズミや小鳥の捕らえ方や食べ方を知らないと、それを教えてやらなければならない。一番よく家に獲物を持ちかえり、飼い主にこの贈りものを届けるのが不妊にされた雌ネコなのはこのためだ。彼らは自分の子ネコにこの行動をおこなえないので、人間の友にそれをおこなうのである。
『キャット・ウォッチング』はライハウゼン本のように自分の研究成果をまとめたものではなく、いろんな動物学者の研究成果を元にして一般向けにわかりやすくまとめたものなので、表現的に擬人化しすぎの感はあります。元ネタもはっきりしないので、ネコのこの行動とネコの人間に対する認識の関連にどの程度根拠があるのかよくわかりません。
因果関係はともかく、この行動が「子猫に餌を運んでくる行動」と同じものであるという点は共通しています。この本の良いところは飼い主向けのアドバイスが書いてある(ライハウゼン本にはそういうのがほとんどない)ところで、この場合だと、怒らずにやさしくなでながら獲物を受け取りあとでそっと処分するのがよい、とのこと。
ちなみに、猫は持ってきた獲物を自分で食べちゃったりもするわけで、それじゃ意味ないじゃん? という疑問もありますが、母猫は子猫を少しずつ獲物に慣らすために、最初は持ってきた獲物を自分で食べてみせるんだそうです。