Apeman さんのエントリでも紹介されている「昭和天皇「靖国メモ」未公開部分の核心」ですが、ネットの捏造説への反論みたいな構成になってて面白かったです。
富田メモの原文をチェックした半藤一利氏と秦郁彦氏に保坂正康氏がインタビューする、という構成ですが、要所要所で保阪氏が「…という声も出ています」「…という人が多いんですよ」「…という噂があるんですが」みたいに話を振るんですが、そのほとんどが2ちゃん等でネタになった話。裏写り解読の件も紹介されています。
半藤 日経はこの部分に詳しく触れないつもりなんでしょう。実はこの一ページ前から、ひと続きのメモなんですが。
保阪 ところが、インターネット上ではすでに、その一ページ前の文章までもが解析されつつあるそうですよ。
秦 ちょっと待ってください。手帳の前ページの画像は、どこにも公開されていないはずですが。
保阪 実は、右側に写っている前ページの裏側から、文字がうっすらと透けて見える。それをパソコンの画像ソフトで解析すると、かなりはっきり読めるようになるんです。
半藤 え、透けた文字で!? 普通の人でも、そんなことができるの? すごい時代になったもんだなぁ。
「昭和天皇「靖国メモ」未公開部分の核心」 『文芸春秋』2006年9月号 p112-113
ワロタ。
とはいえ、残念ながら文芸春秋で公開された未公開部分はネットで解読された範囲と同じ範囲で、断片的に引用されたものを除けば新たなテキストはありませんでした。解読結果はあれで正解だったようです。
出てきた論点をまとめるとこんな感じ。
- 原文チェックの範囲は?
- 半藤氏は日記、手帳、メモの現物。秦氏はそれらのコピーと日経記者がワープロで書き起こしたもの。公開された靖国メモだけではない。
- メモの貼り付けは他にもある?
- 昭和62,63年分の手帳にはほとんど全てのページに横書きのメモ用紙を貼り付けたりホチキス留めしたりしてあって分厚く膨れていた(半藤)
- 問題のメモは直筆か?
- 直筆。コピーではない。(半藤)
- メモにあった関連質問とは?
- 記者会見での事前の予定にないツッコミのことを宮内記者会では関連質問と呼ぶらしい。(半藤)
- 日経が前半部分を公開しなかったのはなぜ?
- 現存している人の名前が出てくるから、気を遣ったのではないか。(半藤)
- 松岡、白鳥以外の合祀は構わないと解釈できないか?
- 「その上」とあるのを素直に読めばそうは解釈できない。(半藤)
- 『独白録』で東條英機に好意的なのと矛盾しないか?
- 好意的といっても陸海軍の統帥部長に比べて相対的にマシということ。対戦末期には東條もあてにならず昭和天皇はアメリカの短波放送で戦況を聞いていた。昭和29年9月のベイリー(UP通信社長)との会談で昭和天皇は、真珠湾攻撃について「東條にだまされた」ということを述べている。(秦)
- 白取の誤字は怪しくないか?
- 偽造するならそんな単純な間違いはしない。(秦)
- 昭和天皇の靖国批判はあの部分以外にないのか?
- 富田長官の日記にも昭和天皇が靖国への批判をしているという記述が何カ所かある。昭和63年12月31日付けで「靖国・松平宮司への批判記述」という記述がその一例。(秦)
- 筑波宮司にもA級戦犯合祀の意志はあったのではないか?
- 時期を見て、とは言っていたが、その意志はなかったという証拠がある。「本人に祀る気はなかった」との息子の証言、筑波宮司が昭和40年に作った「鎮霊社」にA級戦犯を祀ったという当時の靖国の神職の証言。(秦)
- 徳川侍従長の発言と酷似しているのはなぜ?
- 問題の発言は靖国神社がA級戦犯の上奏簿を御所に持ってきたときのもの。当時侍従次長だった徳川氏は天皇のご内意を受けていると考えるのが普通。また、宮内庁の担当者も「そういう方をおまつりすると、お上のお参りはできませんよ」とクギを刺したとの馬場久夫氏の証言もある。(秦)
- 報道のタイミングに裏の意図があったのではないか?
- 日経記者から経緯を聞く限りメモを見つけたのは偶然。3月に日記やメモ等を見つけて、7月に半藤氏に連絡。その時点で記者はメモの内容を解読しきれていないようだった。タイミング的に時期を狙える余裕はなかったので、深い背景はないのではないか。(半藤)
- メモの公開について宮内庁は了解していたのか?
- 日経によると、記事を出す前日には、宮内庁を通じて今生天皇にも、メモを報じることと、メモの内容をお伝えし、宮内庁からは、わかりましたという返事があったそうだ。(半藤)
- 古賀マンセーですか?
- 「古賀さんはあまりに政治的すぎるし、言動が揺れるから、信用できないんですよ。何か思惑がある、と思ってしまう。このメモが出る頃も中国に行って、わざわざ「A級戦犯を分祀したい」と言って、中国人に励まされている。靖国はあくまで日本の問題なのに。」(秦)