金子洋一氏に投票した件

まず、僕は先日の参院選で「リフレ派として金子洋一氏に投票した」ということを公言していました。ところが最近金子氏が不穏なツイートをしたせいか、リフレ派そのものにも非難が。

応答責任をあまり果たせない状況ですので、黙っていようかとも思ったのですが、既に断片的には応答してしまっているし、ある程度まとまった形にしておかないと、逆に誤解が広まることにもなりかねないので、ブログエントリとしてまとめておきます。


参院選の投票前、彼については経済問題を扱った討論番組に出ていたのを見たのと、最近のブログ記事、そして選挙公報公式サイトくらいしか見てないので、過去の言動まではチェックしていませんでした。

外国人参政権に反対していることは選挙公報にも書いてあったので知っていました。

外国人参政権に反対
〜すばらしい日本を次の世代に〜

わが国の歴史と伝統、特に子どもや家族を大切にする価値観を守りぬきます。北朝鮮による拉致問題の早期解決、全国の郵便局ネットワークの維持を実現します。

参議院議員 かねこ洋一 | 政策

正直頭かかえたわけですが、僕自身は外国人参政権には賛成ではあるものの、その目的は参政権そのものではなくて、外国人差別をなくすことであって、参政権があればすべてOKというわけでもないし、参政権だけがその手段というわけでもないので、譲れない一線というわけではないです。だからそこは妥協しました。

選択的夫婦別姓制度に反対していたこと、朝鮮学校の高校授業料無償化を疑問としていることは、投票後になってから知りました。再び頭をかかえたわけですが、一応デフレ脱却優先を掲げているので、それを信じたいところです。

一方で、左派の端くれならなんで千葉法相に投票しなかったんだ、という話もあるかと思いますが、取り調べ可視化は逃げ腰のコメント出してたし、入管の暴走は止めないし、何やってもすぐに官僚に言いくるめられてダメダメとの評判だったので、最初から投票するつもりはありませんでした。信条的には一致する部分が多くても、政策実現が期待できない人への一票は死票と同じだと思うので。

死刑制度廃止については選挙後アクションがありましたが、かなり理解に苦しむ形でのアクションだったし、実効性のある動きとも思えません。というか、そもそも僕は死刑制度そのものには賛成なので(廃止反対とまでは言わないけど)、あまりそのへんはポイントにならず、千葉氏に投票しなかったことについては全く後悔していません。

このエントリを読む必要があるような人ならご存じのように、僕は歴史修正主義には強く反対する立場ですし、リベラルな立場を貫いてきました。その点は今後も変わらないつもりです。

一方で、経済成長を重視し、今の日本のデフレに対してはリフレーション政策を積極的に支持しているので「リフレ派」の端くれでもあります。経済学理論はあまりわかってないので心情リフレ派ぐらいが妥当かもしれませんが。リフレ派の中でも派閥があるとすれば(ないと思いますが)飯田派(飯田泰之氏を支持)でしょうか。

いままでも、この二つの立場を天秤にかけるような事態がなかったわけではありません。2007年の参院選の時、リフレ派のブロガーの間では民主党の経済政策がダメダメという話がずいぶんありました。しかし、当時は安倍内閣です。

当時僕は「与党勝利→社会の危機、与党敗北→経済の危機。こんな国はもう滅ぼせ!!」とか言ってましたが、結局「社会の危機」の回避を優先して民主党に投票しました。歴史修正主義者(と断言してよいでしょう)が首相の内閣に一刻も早く引導を渡したかったからです。

では「経済の危機」はどうなったか。参院選での与党の大敗、民主党の圧勝で「ねじれ国会」になった結果、2008年の日銀総裁国会同意人事が大荒れに荒れ、結局与党側の出した候補が次々と蹴られました。民主党が総裁候補の武藤敏郎氏と副総裁候補の伊藤隆敏氏を蹴った理由として二人がリフレ政策を支持していたことが挙げられています。*1

民主党の同意で日銀総裁になった白川方明氏の金融政策は「デフレターゲット」とでも言うべき最悪のものでした。こうなったことについて後悔はしていません。でもオトシマエはつけなくてはならないでしょう。そのオトシマエの一つが金子氏への投票です。*2

議会制民主主義が個別の政策ではなく政治家あるいは政党を選ぶ制度である以上、政策の抱き合わせ販売的な状況が生まれるのは、あらゆる政策について正しい選択が出来る政治家あるいは政党が存在しない以上、必然です。選択を放棄して傍観者になることを選ばないのなら、どこかで優先順位を付けて妥協するしかないのです。

一方で、投票だけが政治参加ではありません。言論があります。抱き合わせ販売された政策の一方にYES、一方にNOを表明することは可能です。だから僕は今後もリフレ政策にYESを、歴史修正主義や民族差別にNOを表明し続けるでしょう。

補遺1: 悪魔の選択について

直接名指しされたわけではないですが、関係する話だと思うので。

なるほど、“不況は人を殺す”でしょう。そして不況に「人災」としての側面があるなら、亡くなっていたかもしれない人を助けることもできるでしょう。しかしそれが“いま1万人を助けるために50年後に10万人が死ぬ”という取引ではないという保証――とは言わないまでも見込みがあるという確信をどうやって手に入れることができるか? 少なくとも環境問題についてシニシズムを丸出しにしている人間の発言からは無理です。

植民地支配も人災です - Apes! Not Monkeys! はてな別館

「“いま1万人を助けるために50年後に10万人が死ぬ”という取引ではないという保証」とおっしゃいますが、じゃあ、「いま1万人見殺しにしたら50年後に10万人が死なずに済む」という保証はありますか? いや、保証があったとしても僕にはそんな取引に応じる気にはなれませんが。

50年後に10万人が死ぬかもしれないというなら、今後50年かけてそれを回避するために頑張ればいいんですよ。政治に関わっている以上、未来が変えられるというのは前提のはずです。僕だってできる範囲でやりますよ。でも今死ぬ人は50年かけても生き返りません。両方助けたいと思うのなら、今できることをやるしかないでしょう。

こう言うと甘えるなとか平和ぼけとか言われるかもしれませんが、僕は今のところ日本が将来軍国主義化して植民地支配で人を殺す、ということはリアルには想定はしていません。ほっといてもOKというのではなく、それを止めるだけの力はまだ左派にも、そして一般市民にもあると信じているからです。

もっとも国内での民族差別の激化というのはリアルに懸念事項です。しかし「在特会」みたいに犯罪上等で無茶苦茶やる連中は法や制度でどうにかなるものではありませんし、そもそも法の番人たる警察が伝統的に右翼に甘いという現実も簡単には変えられません。

むしろ景気が良くなって、将来に希望が持てるようになれば、あんなのについて行こうという人はほとんど残らないんじゃないでしょうか。

補遺2: 出口政策について

リフレ政策の出口政策については僕も懸念しています。つまり、リフレ政策が成功してインフレ率が上がったとしてもその後、インフレ率の上昇を止められるか、ということです。テクニカルには止められるのですが、政治的には困難になる場合があります。

リフレ政策の一つに、日銀引受けを財源として財政政策を行う「財政マネタイズ」があります。飯田泰之氏などは財政マネタイズには慎重かつ、そこまでやらなくても何とかなる、という立場ですが、よくリフレ政策の実績の一つに挙げられる昭和恐慌時の高橋財政では、財政マネタイズで軍事費を賄ってしまったため、出口政策の障害となってしまいました。

1930年代、日本は金解禁(金本位制復帰)と世界大恐慌によってひどいデフレになりましたが、高橋是清蔵相は金本位制離脱と財政マネタイズによってデフレを脱却し、景気を回復させました。その後、景気が過熱すると、高橋蔵相は財政マネタイズを終わらせるために財政削減を実施しましたが、そのために必要だった軍事費削減に反対する軍人達によって二・二六事件で暗殺されました。そしてその後財政マネタイズによる軍事費増大とインフレに歯止めが掛からなくなりました。

財政マネタイズは是か非か - Baatarismの溜息通信

これをもって「リフレ政策=軍靴の響き」みたいに言われると困るのですが(現状では防衛費のマネタイズを避けることは政治的に困難というほどではないと思います)、利権化は避けるべきだし、高インフレが続くのはまずいです。

飯田氏が以前テレビ番組で言っていたと思うのですが、恒久的な政策には恒久的な財源をあてるべきで、財政マネタイズで賄うのは景気が良くなったらやめたり減らしても構わないものにするべきです。具体的にどう保証するのかというのは僕もわかりませんが。。。

しかし、それこそ悪魔の選択みたいなもので、将来の保証がないからやらない、なんていうのは、今目の前にある危機を見過ごす理由にはならないでしょう。ていうか、普通将来の保証なんてできないわけで、約束させてそれを信用するかしないかで選択するしかない政策なんていくらでもあるでしょう。

別に政治はいつまでも自動操縦で動くわけじゃないんだから、ヤバいと思えばそのとき動けばいいし、そのための民主主義だろうと思っています。


*1:アリフレ政策の政 - BI@K accelerated: hatena annex, bewaad.com, 第169回国会 本会議 第9号(平成20年3月13日(木曜日))

*2:とはいえ、金子氏が安倍氏なみの歴史修正主義者であり、かつ首相も狙えるぐらいの力を持っていたらさすがに投票できなかったと思います。