「女子高生水着のDVDメーカー 児童ポルノ見送り児福法違反で起訴」

心交社メールマガジンで新刊発売予定の案内があったのでびっくりしていたら、先日スタッフが逮捕された事件は児童ポルノ禁止法違反ではなく児童福祉法違反で起訴になっていたのに今更気付いた。

 DVDには全裸シーンはなかったが、高校生の水着が透けたり、局部の形がわかったりするような画像があったため、警視庁が先月、有金容疑者らを児童ポルノを製造した容疑で逮捕した。東京地検は「映像の内容は児童ポルノに当たる」との見解を取ったものの、「撮影対象になったのは17歳で、他の児童ポルノに比べ悪質性が高いとはいえない」として、児童福祉法違反罪での起訴が適当と判断した。

女子高生水着のDVDメーカー 児童ポルノ見送り児福法違反で起訴 (MSN産経ニュース)

児童ポルノに当たる」としながら起訴しないというのはどういうことだろう? 起訴猶予(情状が軽く訴追の必要がない)ということ? 奥村弁護士によれば「出版による製造罪の科刑状況と有害支配の法定刑・科刑状況を比べると、有害支配の情状として製造を立証すれば、量刑としては遜色ないという判断でしょう」とのことだが、それでは問題のDVDの流通自体は止められないのではないか。

出版社は販売を続ければ民事訴訟がありうるので発売停止にするだろうけれど、中古や流通在庫の取引やネット等での複製の流通に対しては歯止めが弱い。被害者の訴えが、撮影行為で傷ついたのであってDVDが流通するのは全く気にしない、ということであれば、現実的な判断なのかもしれないが、そんなことがあるのだろうか? 出版社が発売停止すれば流通が止まるとだけ認識していて、中古取引や複製の流通まで考えていないのではないかと思う。

撮影行為については児童福祉法違反、DVDの販売については児童ポルノ禁止法(公然陳列)で起訴というわけにはいかないのだろうか?

児童福祉法違反第34条9号の「児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的をもつて、これを自己の支配下に置く行為」にあたるとして起訴されたようだが、心交社はこれを撮影プロセス次第で回避できると考えたのだろうか?

 弁護人の所論は要するに、被告人は被害児童を雇用していたが、休日を与え、休み時間もとらせるなどしており、同人らを監視したり、同人らに本件行為を強制したものではないから、児童を支配下に置いたものではないというのである。

 そこで検討するに、児童福祉法三四条一項九号にいう「自己の支配下に置く」とは、児童の意思を左右できる状態の下におくことにより使用、従属の関係が認められる場合をいうが、必ずしも現実に児童の意思を抑制することがなくても客観的に児童の意思を抑制して支配者の意思に従わせることができる状態を顕現した場合をもって足りると解されるところ、被告人は、被害児童をNコーポに住み込ませたうえ、被告人もしばしば同所に泊まり込んだほか、被告人の愛人やその配下の者を泊まり込ませるなどし、同所において、被害児童に時給五五〇円で深夜にわたる業務に従事させ、勤務時間中は、被告人らにおいて児童の勤務ぶりを監視するとともに、その自由な外出を示じ、食事もいわゆる店屋物をとらせたうえ、賃金も被告人の愛人が預かるなどし、また被害児童の一人にその勤務態度が悪いとして暴力を加えることもあったことか認められることなどを総合すれば、被告人は児童を支配下に置いたというべきである。
福岡高等裁判所判決平成4年3月23日 - 少女が下着脱ぎ“即売”、「生セラショップ」摘発 (奥村徹弁護士の見解) より

児童福祉法34条1項9号の児童を「自己の支配下に置く行為」とは、児童の意思を左右できる状態に置くことによつて使用、従属の関係が認められる場合をいい、このような関係が存在する以上、たとえそれが児童の希望に基づくものであり、その親権者もこれに同意していたとしても、このような事情は同条項違反の罪の成否を左右すべき事由とはならない。
東京高等裁判所判決昭和59年9月27日 - 少女が下着脱ぎ“即売”、「生セラショップ」摘発 (奥村徹弁護士の見解) より

「自己の支配下に置く行為」という部分をクリアできるかどうかということになるのだが、本人及び親権者に同意があってもアウトになる場合があるようだ。ただし上の例では監禁に近い状況で、本人の意思でやめられないというあたりが効いているのだろう。穏便に撮影を進めれば問題ないということなのだろうか?

しかし、児童ポルノ禁止法違反に該当するようなケースの場合、被害者は性的自己決定能力が乏しいこと、性的な事柄であり親権者が決定を代行することは望ましくないこと、が前提になるであろうから、権利行使する能力に乏しい児童に拒否権を認めても意味がなく、むしろ拒否しなかったことへの責任を負わせることになり、より有害な結果になりかねないのではないか?

ちなみに wikipedia:力武靖 で、彼が撮影時にモデルの拒否権を認めたことをもって彼を擁護するような記述があるが、上の理由で無理があると思う。撮影行為そのものについては本人の判断というのはある程度まで可能だろうけれど*1、撮影されたものが流通することが自分にどんな影響を及ぼすかについて十分な想像力を持って判断することは未成年では(特に力武がモデルにした11歳〜14歳あたりの子供には)困難であろう。


*1:しかし性についての知識が乏しく、相手の性的な意図に気付けないような場合は拒否できない。