性犯罪者にGPS 出所時同意で装着、法務省検討

梅太郎さんとこのエントリ[再犯率] 性犯罪者GPS装着検討 - 日記みたいなモノ。で知ったニュース。

法務省は、性犯罪受刑者が出所した後の居場所を把握するため、衛星利用測位システム(GPS)端末を同意の上で装着させることを検討している。GPSを活用した犯罪の再発防止策が欧米などで広がっていることを背景に、日本でも実施の可能性が出てきた。
 出所者の同意を得るとはいえ、GPSを使った防止策は人権やプライバシー侵害として反対の声は根強く、議論を呼びそうだ。
 日本では、2004年に奈良市で発生した小1女児誘拐殺人事件を機に性犯罪者対策を強化。法務省は翌年6月から、13歳未満に対する性犯罪受刑者の出所予定日や居住予定地などの情報を、警察庁に提供するようになった。
 各警察署が所在を確認するものの、行方が分からなくなるケースもあった。
 法制審議会の部会などで問題提起され、今年4月にGPS活用の検討を自民党の特別委員会が提言した。
 英国や米国では、性犯罪の前歴のある人の住所や顔写真などを提供。米フロリダ州では拘禁刑終了後も生涯、GPS端末装着を義務付ける法律が制定され、他の州に広がっている。
 韓国では今年9月、たびたび性犯罪を繰り返す受刑者の仮釈放後や出所後、居場所や行動を電波で24時間把握する「電子足輪」の運用が始まっている。装着期間は最大10年。
 日本の場合、性犯罪の中で強姦(ごうかん)の認知件数は2000年以降、2000件から2500件の間で推移。06年からは2000件を下回り、再犯率は傷害や詐欺などに比べ低いが、被害者が届けないために統計に表れないケースも多いとみられる。

中日新聞:性犯罪者にGPS 出所時同意で装着、法務省検討:社会(CHUNICHI Web)

再犯率は傷害や詐欺などに比べ低いが」というのはまず進歩ではないかと思いますが、「被害者が届けないために統計に表れないケースも多いとみられる」と付け足すあたりは気になります。

梅太郎さんは、性犯罪の検挙率が他の犯罪と比べて高いことから性犯罪だけが「統計に表れないケースも多い」とは言えないと反論していますが、これは的外れではないかと思います。この場合の「統計に表れないケース」は暗数(認知件数にカウントされない被害)のことでしょうから検挙率からは何もわかりません。

検挙率は警察が頑張りで上げられますが、暗数は被害者が頑張らないと減りません。警察に相談に来て被害届を出すかどうか迷う場合は警察にも多少は頑張りようがありますが、被害者が警察に行かない/行けない場合は警察にはどうにもできません。検挙率が高いからといって暗数が少ないとは言えません。

暗数の調査は法務省法務総合研究所がやっています。

今年の春に実施された第3回調査によると「性的事件」の申告率は13.6%で各種犯罪の中では最低。強盗の1/5ということなので性犯罪に「統計にあらわれないケース」が多いというのは実際そうなのだと思います。ただし、この統計で言う「性的事件」は性犯罪よりゆるいカテゴリで、「強姦(未遂を含む),強制わいせつ,不快な行為(痴漢,セクハラなど)を指し,日本の法律上必ずしも処罰の対象とはならない行為も一部含まれる」ということなので、GPS装着対象となる性犯罪とは必ずしも一致しないと思われますが、大きな傾向は変わらないでしょう。

それでは再犯率を申告率に合わせて高めに補正するべきなのかというと、そういうわけにもいきません。性犯罪のように累犯が多い犯罪の場合は、申告率が低くても結局は何度目かの犯行で捕まって再犯としてカウントされることになりますから、再犯率の統計値は実態とさほど乖離しないこともありえます。

そういうわけで、一般論としてGPS装着には問題があることを認めた上で、それでも敢えて性犯罪を特別扱いするだけのはっきりした統計的根拠は今のところないのではないかと思います。おそらく奈良の事件の後の流れと同様に、メディアでは怪しげな統計で一般市民の支持を取り付けつつ、公式には「再犯率は高いとは言えないが被害の深刻さを考慮して…」という穏当そうな理由で導入される方向に流れるのでしょうね。。。

それはそうと「再発防止策が欧米などで広がっていることを背景に」というからには欧米で再発防止に効果があったという結果が出てるんでしょうか? 気になります。もっとも警察はそのへんはあんまり気にしてないんじゃないかと想像しています。警察としては、再犯が防止できようとできなかろうと、捜査の効率が上がればそれでいいという立場なのではないかと。今は反対されにくい性犯罪を前面に出していますが、最終的には他の犯罪でもGPSを使いたいんじゃないでしょうか。