ちょっと色々余裕がないので簡単に。
統計的な話については、人口構成比をそろえないととか、病気で除隊した人がカウントされないとか、そもそも入隊時の身体検査で病気の人が弾かれるとか、衣食住が保証されているとか、独身者が多いとか*1そういう問題があって一般との比較というのもなかなか一筋縄ではいかないと思いますが、ちょっと別の視点から。
自殺が多いという説は、デュルケームの『自殺論』の議論でいうと「集団本位的自殺」が多いだろうと考えられているのではないかと思います。実際『自殺論』ではヨーロッパの軍人の自殺傾向が同年齢の一般市民の自殺傾向よりも非常に大きいという分析が出てきます。
しかしこれはなにしろ19世紀の話ですから今でも通用するのかどうか。軍隊も、そして一般市民の生活も当時とはまるで違います。実際 zyesuta さんの単純な比較を見ても『自殺論』に出てくるような2倍とか10倍とかいう話にはならなさそう。
一方で『自殺論』の議論される「自己本位的自殺」と「アノミー的自殺」は軍隊では、特に自衛隊のように志願兵からなる組織では少なくなると考えられます。振り返って一般社会を見るならば、現代では「アノミー的自殺」が増えているなんてことも言われています。*2
そうなると、健康状態や経済格差等を補正して比較したところであまり意味がない、とるべき対策が違ってくるので片方がもう一方をお手本に対策するみたいなことができない、ということがあるかもしれません。というか、そもそも健康問題と経済問題を補正で消してしまうと、一般社会で大事な部分がほとんど抜け落ちてしまうのですが。。。*3
ですから、自衛隊の自殺問題を考える場合、一般と比べて多いとか少ないとかいうことよりも、一般と比べて特殊な環境なので一般の自殺防止対策とは違った配慮が必要になるであろうという点が大事なのだと思います。ゆえにマクロな自殺率をどうこうするよりも、個々のケースをよく分析して再発防止策を検討するのが第一ではないかと思います。
P.S. 「こんな古いものを…」
21世紀にもなってデュルケームかよ!とかツッコミがはいりそうですが、別に酸素欠乏症なわけではなくて教養がないだけです。すみません。21世紀に読むにふさわしい自殺論の名著などありましたらご紹介いただければ幸甚。
*1:これは自殺率を増やす方向に作用する。
*2:統計的裏付けがあるのかどうかは知りません…
*3:原因・動機別で見ると健康問題と経済・生活問題が9割を占める。参照: 平成20年版 自殺対策白書[概要]