ちょっと酷い話。去年の(今年と勘違いしてました。訂正します。)9月頃、2ch ハングル板で在日韓国・朝鮮人の生活保護受給率が非常に高いという話が出ていたようです。以下がまとめサイト。
http://www.geocities.co.jp/WallStreet-Bull/2487/
これは驚くべき事実! と思いきや、どうも怪しいので調べてみました。このサイトは「在日韓国、朝鮮人の5人に一人は生活保護受給者」であると主張しているのですが、これは以下の数字が元になっています。
これはにわかには信じがたい数字です。ここで参照されている統計要覧の元データは以下のものと思われます。
これによると、平成13年度の全国の被保護実人員として 1,148,088人、平成13年度の外国人の被保護実人員として 421,651人というデータが出ていて、上の数字とは一致しているように見えます。
しかし、よく見ると、全国のデータの表の上には(各年度1か月平均)という注意書きがあります。そして、外国人の表の被保護実人員の下には「1か月平均」という欄があり、上の数字の約12分の1にあたる 35,138人という数字があるのです。これは一体どういうことでしょう?
結論から言うと、まとめサイトの筆者(やそのネタ元の人)は外国人の被保護人員だけ12倍に水増しした上で比較しているのです。勘違いなのか悪意があってのことかは知りませんがこれは酷いデマです。
生活保護の被保護実人員というのは毎月の生活保護を受けた人の数を累計した延べ人数です。人口あたりの保護率を求める場合はこれを12で割った1ヶ月平均の人員を人口で割ります。第3−5表では表内に保護率を計算しているので最初から1ヶ月平均の値が書いてあるのでしょう。
となると、外国人の被保護人員についても同様に計算しないと比較になりません。上の第3−10表によると、平成13年度の1ヶ月平均の被保護人員である 35,138 人を、平成13年の外国人登録者の総数の 1,778,462人(参照: 平成13年末現在における外国人登録者統計について)で割って*1、被保護率は約 2.0% になります*2。
確かに日本全体の保護率 0.9 % に比べると倍以上と高いのですが、5人に1人 ではなくその1/10の 50人に1人 です(これは外国人全体での割合です。在日限定の割合については追記その2を参照)。
これは外務省の人種差別撤廃条約第1回・第2回定期報告(仮訳)の別添6.被保護外国人数の傾向ともだいたい一致します。ただしこの表は何故かあちこち文字化けしてるので注意。保護率がパーセントになっていますが、正しくはパーミルでしょう。平成9年度の全国の被保護人員 405,589人というのも、上の第3−5表と照らし合わせると 905,589人です。
以上についてまとめサイトの著者に連絡しようと思ったのですが、連絡先がどこにも見当たりません。どうしたらいいんでしょ?
追記
とりあえず http://d.hatena.ne.jp/http?//www.geocities.co.jp/WallStreet-Bull/2487/ でヒットした日記にトラバ飛ばしておきます。
反論等ありましたらよろしくお願いします。
追記その2: 実際の「在日の」保護率について
id:kerberos さんによると誰かがこのエントリをネタにしたスレを立てています。そこの書き込みによると、この件はハングル板で10日程前には既出だったようです。
http://society3.2ch.net/test/read.cgi/korea/1098348592/100-377
とりあえず「5人に1人はウソ」というのは認められた模様*3。あとは在日韓国・朝鮮人に限ると保護率はどうなるかという話になっています。
件のまとめサイトでは一見それを計算しているように見えて実は外国人全体の保護率を計算しており、このエントリでも比較のためそちらを計算したのですが、ハン板的にはそっちが問題ということで、焦点は、
- 分子はいくつか。国籍毎の保護人員のデータが必要。
- 分母はいくつか。生活保護を受けられる人(定住者)に限るべきでは?
というあたり。
1 については公開されているデータに該当するものが見当たりませんが、厚生労働省にメールで問い合わせて回答を得たという人が公表したデータが以下に転載されています。
このデータ自体の信頼性は未検証ですが*4、特に怪しい点も見当たらないのでとりあえず信用することにします。
これは被保護世帯数と世帯人員の構成の表で6人以上世帯の部分が曖昧になるため求めるデータとは微妙に違いますがそれでも概算はできます。平成14年度のデータだと*5、世帯人員を足し合わせて概算すると 26,765人 / 625,422人 で約 4.3 % です*6。
2 は「1990年、厚生省より、生活保護対象外国人は定住者に限る、非定住外国人は、生活保護法の対象とならないと口頭で指示が出されている」ため、分母がもっと小さくなる(保護率が増える)という主張があります。
しかしこれはその後の動きで基準が緩和されているようです。また自治体によっても対応は異なるようではっきりした数字はわかりません。
http://homepage3.nifty.com/amdack/case/case38-1.html より:
しかし、生活保護の予算抑制と非定住外国人(短期滞在及びオーバーステイの外国人等)の増加に伴い、1990年、厚生省より、生活保護対象外国人は定住者に限る、非定住外国人は、生活保護法の対象とならないと口頭で指示が出されたのです。本来は文書による変更通知が必要で、 382号通知が存続するにも関わらず、この口頭で出された厚生省の見解に従い、全国の自治体はそれ以後、非定住外国人に対する生活保護の準用を行ってきませんでした。このような状況の中、1997年、熊本市の日本国籍を持つ子を扶養する在留特別許可申請中のオーバーステイの外国人の母(その世帯)に対して生活保護を準用することが可能か否かの照会に対して、厚生省は、1996年7月30日の法務省の通達(日本人の実子を扶養する外国人の親へ定住者ビザの取得を許可する旨の通達)に基づき、定住者の在留資格がほぼ確実に取得できるとして、生活保護を準用することが可能と回答しました。しかしその後、厚生省は、在留資格が切れる前に在留資格の取得の申請をしていれば、在留資格が無くても生活保護準用の協議対象とすると、その見解の変更を行ったのです。そして昨年東京都は、色々な現状を踏まえ、都として一定の見解を示す必要性が生じたとして、日本人の子、日本人に認知された子を養育している等、在留資格取得の可能性が高いと判断されること、在留資格の取得申請をしていること、または取得申請を準備していることという条件を満たす外国人に対して、例外的に生活保護を準用するという見解を示しました。
もう一つ在日という用語は特別永住者を指すのではないかという意見。例えば外国人参政権問題などで保護率問題を扱う際にそこのところを厳密に区別して扱うならそれも正論でしょう。現実にそうなってるかは甚だ疑問ですが。
ただしその場合は分子のほうも特別永住者の被保護人員だけ区別して扱う必要があります。が、そういうデータは見当たらないのでとりあえず分子を補正せずに最大の値を見積もると、平成14年度の韓国・朝鮮籍の特別永住者は 485,180人ですから(「平成15年末現在における外国人登録者統計について」第9表より)保護率は約 5.5% です。
結局、平成14年度の「在日」の保護率は 4.3% 〜 5.5% の間(23人に1人〜18人に1人)と考えられます。だいたい 20人に1人だと思っておいてよいかと。そして平成14年度の全国の保護率は 0.98% です。これが多いのか少ないのか、多いとして何が問題なのか(弱者権力による不当な受給のあらわれと見るか、差別による不当な経済格差のあらわれと見るか、等々)は各自調査・判断してください。僕は在日問題には詳しくないので。
いずれにせよ「5人に1人」はその根拠も数字も全くのデタラメであり、これを無批判に紹介しているサイトはすみやかにお詫びして訂正すべきでしょう(黙って削除とかじゃなくて)。
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