「集団的自衛権問題」についてのメモ

最初に自分の現在の立場を述べておくと「いずれかの時点で適切な歯止めを持った制限付きの集団的自衛権憲法改正によって確立することが望ましい」というのが僕の立場です。

しかし「安倍政権が」「閣議決定で」「解釈改憲」というのはネガティブに受け止めています。

  • 近隣諸国に対して挑発的な行動を繰り返した上での決定であること。
  • 重大な判断について国民的議論や国民に信を問うプロセスを回避したこと。
  • 憲法解釈の不安定さを対外的に印象付けてしまったこと。

が、理由です。後ろの二つは今に始まったことではないですが、繰り返せば繰り返しただけ弊害が大きくなるので、今更だからどうでもいい、とは思いません。

僕から見ると、世間での集団的自衛権に関する議論は、賛成派・反対派共に極論・暴論に思えるものが多く、デリケートな意志決定の参考にするには頼りないものに思えました。

じゃあお前が模範的な議論をしてみろよ、と言われても、僕にはそれをやるだけの見識はありません。だからこそ賢い人たちの議論を参考にしたいわけで…

しかし、どういうことを踏まえた議論が必要だと思うか、読みたいか、という要望はありますので、以下それについて述べます。

安全保障のリスク論

国民の生命や財産の安全のためには、あらゆる可能性に対応できるように可能な限り武力行使可能な範囲を広げるべきでしょうか。それによって国民の生命や財産は、より安全になるのでしょうか。

他国からの侵略や地域紛争に巻き込まれるような状況で先手が打てる等、ある面ではイエスです。が、国民の生命や財産の安全に対するリスクは戦争だけではありません。

たとえば、国際社会から信用されないとか、経済が停滞するとか、そういうことも国民の生命や財産に関わるリスクです(他にも、もっと大きなリスクがありますがそれは後述)。

戦争放棄、あるいは専守防衛の原則にしても、安全保障上のリスクと引き替えに外交上のリスクや経済上のリスクを低減することが優先課題とされた時期に日本が選択した(あるいはタテマエとして利用した)態度です。

その態度を変更するには、

  • 安全保障リスクが高まった。
  • あるいは他の対抗リスクが低下した。

という情勢の変化があって最適なバランスが崩れた、という理由が必要です。

実際、日本は国際社会に復帰し、世界的な経済大国になり、一方で冷戦が終結し、地域紛争に対して国際社会が対応していく、という変化の中で、9条を含めた改憲論が一定の説得力を持つ時期がありました。90年代から2000年代にかけての話です。

しかし、その後、約20年続いたデフレ不況、日韓・日朝・日中関係の悪化、排外主義の台頭など、また状況は変化しています。今、どうバランスを取るのがベストなのか、冷静な議論と合意が必要だと思います。

個人的には、やっとデフレ脱却へと前進させたと思ったら消費税増税でその勢いを削いでしまい、外交的には失点が重なっていて、一方で9条以外にも問題だらけの改憲案を抱えている今の自民党安倍内閣は、タイミング的にも資質的にも、こういうデリケートな仕事ができる内閣ではない、と判断しています。

戦争のリスク

ここまで、軍が動きやすくなれば戦争で国民の生命や財産が失われるリスクが減るという前提で書きましたが、本当にそうか? それだけか? とも思います。

戦争のリスクと言っても、他国から戦争を仕掛けられたり、他国間の戦争に巻き込まれたりするリスクだけではなく、自国がするべきでない戦争を始めてしまったり関わるべきでない戦争に関わってしまったりするリスクもあります。

特に日本の場合、最後にやった戦争(太平洋戦争)では、開戦国側になって多くの国民の生命・財産を失わせる結果になっています。

無謀にも自分から戦争を仕掛けてしまった、戦争を始めてからも降伏のタイミングを見失って徒に被害を増やしてしまったこと、軍の犠牲者の過半が戦闘ではなく餓死や病死という形で命を失ってしまうほど、個別の軍事作戦も無謀であったこと、など反省すべき過ちは多々あります。

平和憲法、というか、それを追認した国民の選択は、その反省の上に成り立っています。戦後の大半の時期が保守政権だったにも関わらずその選択が維持されてきたのは、理想主義的な「平和主義」によるというよりは、「ウチら戦争下手すぎヤバい」みたいな現実主義的な認識が国民の大半に共有されていたからではないでしょうか。

だから、さすがに今の日本はそんな過ちは繰り返さない、何らかの形で戦争に関わることになったとしても戦前に回帰するようなことはありえない、そう思っていた時期が僕にもありました… 昨今の世情を見ると、そうでもないか? という気になっています。

過去の過ちに対する反省は、不十分とはいえ、少しずつ進んでいるものと思っていたのですが、ここ10年程の間に逆風が吹いている、というか、今までの「反省」も、豊かな経済を背景とした余裕があってこそだったのか、とか、一部の階級の人たちの知的流行でしかなかったのか、とか、そういうことを考えてしまいます…

その他、軍が戦争に備える動きをすることが近隣諸国を刺激してしまい、かえって戦争の引き金になってしまう(相手国の攻撃の口実に使われてしまう等)、ということは実際あります。そうなった場合、もちろん善悪で言えば先に武力行使した側が悪いに決まっているのですが、自国のリスクマネジメントという観点では失敗には違いありません。

その他

余裕がなくて書ききれなかったことをメモ的に