こんなニュースがあって、アイドルの「恋愛禁止」契約は人権侵害ではないか?みたいな話が出てる。
ファンとの交際が契約違反でグループ解散の原因にもなったとして事務所が損害賠償請求して、それが地裁判決で認められたというもの。
この件の場合、問題のアイドルが未成年者だという問題もあるのだけど、そのことはさておき「恋愛禁止」契約一般について。
アイドルが何を売っているのかというと、形式的にはステージでのパフォーマンスやCDなどのコンテンツを売っているわけだけれど、実際には疑似恋愛という体験を売っている面が強い。
好きな人のステージだから見る、好きな人の歌だから聴く。
と言っても、元々ステージを見て、あるいは歌を聴いて好きになるということもままあるわけだから、どちらが主か従かとは一概には言えないものが、いずれにせよ、好きという感情が薄れるとステージから足が遠のき、新曲を買わなくなり… という事になりがちだ。ましてやグッズの類などは。
こんな話もあった。
ジャニーズのアイドルが結婚したいと言うと、事務所側が、これだけのファンが減ってグッズの売上げもこれだけ減る、というデータを見せて引き止めにかかるという話。
実際に疑似恋愛を売っているという点はデータ的にも裏付けられているようだ。
それにしても「恋愛禁止」は「病気禁止」みたいなもので無茶なんじゃないか、とも思う。
しかし、契約の条件を守れなくなった場合には違約金が発生するという契約は普通にあり、それは契約当事者の病気が原因のやむを得ない事情によるものだとしても払わなければならない(法的な保護がある場合は別)。
違約金が定められていなくても発生した損害を補填しなくてはならない場合もある。僕自身フリーランスで仕事をしていて病気で仕事を完遂できなかった時に、残りの分を特急料金で他の人に頼んだからという理由で報酬から特急料金分引かれた事がある。
なので、「恋愛禁止」なんて契約書に書くかどうかはともかく、アイドルが恋愛をした結果発生した損害について賠償を求められるということは、現状では仕方がないことではないかと思う。
何らかの法的保護はあってもよいし、特に未成年者に対して健全な心身の発達を妨げるような形で責任を負わせるのは無理があるとは思う。
あるいは、疑似恋愛を売るという事自体が倫理的に問題があり、少なくともタテマエ上はパフォーマンスやコンテンツを売る仕事だと言うべきで、そうであれば「仕事」をこなしている限りにおいて私生活上の選択について何ら責任はないとするべき、という考え方もあるかもしれない。
疑似恋愛を売ることが倫理的に非難されるべきものなのかどうか、よくわからない。ただ、タテマエとして疑似恋愛は売っていないということにした方が、売り手買い手共に色々と丸くおさまる気はする。
理屈はともかく、アイドル追っかけ当事者の自分としては、アイドルに恋愛を我慢なんてして欲しくはないし幸せになって欲しい、けれど実際にアイドルに恋人ができた時に今まで通りの情熱が続くとは思えないし、ましてや相手がファンならとても素直に祝福なんてできそうにない。
矛盾しているようだが、正直な気持ちだ。
それは僕の精神の歪さなのか、それとも疑似恋愛に支えられるビジネスあるいは自己実現そのものが持つ歪さなのか。
(初出: note)