『戦前の少年犯罪』は買う予定ではいるがまだ買っていない(まだアマゾンのカートの中)し、少年犯罪データベースドアは断片的にしか読んだことがないので、いまさら気付いたのだけど、考える前にやるべきことがあるだろは、彼のモットーを語った管賀江留郎について、あるいは私は考えない。を言い直したものだった。
管賀氏の言う「基本的データがない状態で、ものごとを正しく考えられるはずがありません」という点については以前再犯率問題について書いていた時に僕も痛感した。
再犯率問題とは
再犯率問題というのは3年ほど前のこういう話。2004年の暮れに奈良幼児殺害事件の容疑者が逮捕された。この容疑者性犯罪の再犯者だったためマスメディアが和製ミーガン法を求める方向に世論があおったのだが、その根拠となる「性犯罪は再犯率が高い」とする統計がデタラメだったという問題。
これは「統計の嘘」というレベルではなくてコレジャナイ統計とでも言うべきしろもの。つまり「再犯率」として出された数字はどれも再犯率ではない統計値(再犯者率)だったのだ。容疑者逮捕から約3ヶ月の間、大手新聞、全国ネットの民放・NHKに至るまで「再犯者率」を「再犯率」として報道していた。
実際のところ当時一般に公開されていた犯罪統計には再犯率も再犯率を計算可能な元データもなかったのだ。法務省が性犯罪の再犯性を分析するために再犯率データの作成に着手したのが2005年の2月末。
結局性犯罪の再犯率が高いというデータは得られず和製ミーガン法の導入は見送られた。事件をきっかけに刑務所での性犯罪の再犯防止プログラムの導入、13歳未満の児童を対象とした性犯罪に限り警察への出所者情報の提供の開始が行われたが、これらは再犯率が高いことを理由にしたものではない。
このあたりの流れは山咲梅太郎氏の日記が当時の報道をリアルタイムに記録・考察していて参考になる。
なぜ誤報が続いたのか
管賀氏は「基本的データがない状態で、ものごとを正しく考えられるはずがありません」と言う。それはもっともだが、再犯率問題で誤報が続いたのは報道関係者が基本的なデータがない事に気付かず、別のデータを基本的なデータだと勘違いしたからだ。
「性犯罪の再犯率は高い」という話は事件が起こる前から流布していた。大きな再犯事件があった後にこの話を持ち出そうとするのは自然な流れだ。読者や視聴者はそれを期待、マスメディアは期待を予期してその話をしようとした。これは責められることではない。
ソースなしの言いっぱなしコメントも実際あったが、多くは数字で裏付けようとしていた。これもそれ自体は立派なことだ。しかし裏付けにならない統計を裏付けできるものと勘違いして誤った報道が行われてしまった。統計が何を示しているかと自分が何を言おうとしているかが噛み合ってないことに気付かなかったからだ。*1
報道関係者は、自分の言おうとしていることを裏付けるためにどんなデータが必要か、入手できるデータはその要求を満たすものか、ということをよく考えるべきだったのだ。そうすれば必要なデータがないことに気付けたはずだった。
純粋に真実を知りたいだけの人なんてほとんどいない。なんらかの結果を期待するところからデータ集めが始まるのだ。世論を動かせる立場の人はほとんどそういう人だろうし、その現実はそうそう変えられない。そう思うので僕は「考える前にやるべきことがあるだろ」と言う前に「よく考えろ」と言いたい。
*1:気付いていてなお世論を誘導するために嘘を言ったという可能性もあるが、ここは善意に解釈する。